みなさんは、サバの味噌煮はお好きだろうか。
サバの味噌煮は世界を救う。おいしいからである。
しかもいろいろ体に良かったりもする。
人類の行く末はサバの味噌煮にかかっているので、みんながサバの味噌煮を食べたくなるように仕向けなければならない。
というわけで今回は、過去の漫画や映像作品などの中からサバの味噌煮が出てくる5作品をご紹介する。
作中におけるサバの味噌煮の描写から、手に箸握る興奮をお届けしようと思う。
目次
1. 阿部潤『忘却のサチコ』〜サバ味噌でいざ、忘却の境地へ〜
まずはシンプルに飯テロを企てるべく、「忘却のサチコ」第1巻より第1話を見てみよう。
この作品は、結婚式の最中に彼氏の俊吾に逃亡されてしまったサチコが、おいしいものを食べることで俊吾を「忘却」せんとする物語である。
職場では鉄の女などと呼ばれ、理性的で完璧なまでに仕事をこなすサチコ。
しかし普通にしていたつもりが、仕事でミスが続いたり、あらゆるものが俊吾に見えたりと、次第に自分の負ったダメージに気がついていく。
そんな彼女は職場に気を遣われて休みをもらい、定食屋に立ち寄る。
そこでサバの味噌煮定食を注文するのだ。すると彼女はふと思う。
「サバの味噌煮ってこんなにおいしかったかしら……?」
それ以降4ページにわたって食レポするサチコ。そのおいしさに、意識の全てが集中していく。
そしてその果てに、サチコは仏となる。
サチコは気づく。
(今…私…俊吾さんのこと忘れてた……)
おいしいものを食べている間は俊吾を忘れられることに気がついたサチコ。
こうして彼女は、忘却の美食道へと歩み出すのだった。
仏の顔は何度でも。そう、サバ味噌ならね。
どこぞのゴローちゃんの言うとおり、食は癒しをもたらす。
サバの味噌煮はサチコを忘却の境地へといざない、仏の域にまで到達させてしまった。
ここでそのメカニズムを考えてみる。
サバにはイノシン酸という旨味成分があり、魚の中でも含有量がトップクラスだそうである。
対して味噌にはグルタミン酸が含まれているのだが、これがイノシン酸と合わさると相乗効果を生み出し、単なる足し算以上のおいしさを感じさせるのだ。
つまりサバの味噌煮は、理論上サバをもっともおいしく食べられる料理といっても過言ではない!!
人間、仏の顔は何度でもできる。サバの味噌煮がある限り。
2. 宮崎駿『風立ちぬ』〜サバはうまいよ(真理)〜
この映画にも、サバ味噌の魅力が描かれている。言わずと知れた宮崎駿監督作品、「風立ちぬ」。
昼食のシーンに注目。
主人公の堀越二郎は、学友の本庄といっしょに定食屋を訪れる。
そこで二郎がいつも頼むものこそ、サバの味噌煮定食なのだ。
「二郎、またサバか!」
本庄はやや呆れ気味である。「マンネリズムだ」「大学の講義と同じだ」と、学生らしく熱っぽく続ける本庄。
「サバはうまいよ」
二郎はひとこと。
意に介さないようである。
二郎はとても頭が良く、計算力や集中力に長けている。そのくせ、飛行機を作ることしか頭にない。
現代の仕事中毒のビジネスマンには「エグゼクティブ層」と呼ばれる人々がいる。彼らの中には、少しでも考える手間を減らすためにいつも同じものを食べる人も少なくない。
スティーブ・ジョブズや多くの著名人が同じ服しか着ないことで有名だが、それも同じ理由である。
少しでもやりたいことへ意識を集中するためだ。
たぶん二郎は、自然体でそれをやっていたのだと思う。
好きだし、毎日違うものを食べたいとも特に思わないので、自然にサバ味噌ばかり食べるようになったのだろう。
サバがもたらすスマート・ブレイン
サバにはオメガ3という必須脂肪酸が含まれているのだが、これは脳内の神経細胞が情報を伝達するのを促進する効果がある。
はやいはなし、柔軟性に富んだ回転の早い頭になるのだ。「おさかな天国」は正しいのだ。
二郎がその後、日本の飛行機を担う設計者となった影には、毎日のサバがあったのかもしれない。
ジブリ映画の食事シーンはジブリ飯と呼ばれ度々話題になるが、「風立ちぬ」におけるジブリ飯はサバ味噌だ。
観ればきっと、サバの味噌煮が食べたくなる。
3. 東映『仮面ライダーカブト』〜サバの道を往き、味噌を司る〜
さて、世の中にはサバ味噌が出てくる作品といえば「風立ちぬ」派の他に、もう1つ派閥がある。
それが「仮面ライダーカブト」である。
これを書いている現在、YouTubeの東映特撮チャンネルでは、毎週金曜日に「カブト」を配信している。(※ 2018/06/23現在)
コメント欄を見ると、「カブトを見てサバ味噌を食べたくなった」という人は放送当時からけっこういたらしい。
筆者はそれを見て「ぼくは風立ちぬだったなあ」と思った。ぶっちゃけると、それがこの記事を書く発端となっている。
見切り発車も甚だしい。
第2話では、主人公の天道はとあるビストロを訪れる。そこでバイトしている男に用があるためだ。
タバコで迷惑をかけていた客3人組を颯爽と追い払い、ドカッと席に着いて注文したのがサバ味噌だ。
ビストロはフランス料理の店なのでサバ味噌はもちろん扱っていないが、「俺の鼻は誤魔化せない。たぶんまかないで作ったやつだ」といってのける。
実際、バイトの少女が作ったまかないのサバ味噌があった。オーナーらしき女性に促され、卓へ出される。
するとそのサバ味噌は、料理の大得意な天道が再現できないほどのおいしさだった。
「この言葉を、おばあちゃん以外の人間にいうのは初めてだ……。 うまい」
そういういきさつがあって、割としつこくサバ味噌の話題は本編に出てくる。
現在、2話の配信が終了して3話と4話が公開されているが、そのいずれにもサバ味噌は出てきている。
たしかに「カブト」を見てれば食べたくなるのは自然かもしれない。
余談
すごくどうでもいい話だが、サバの味噌煮はフランス語でGoogle翻訳にかけると……
「Maquereau mijoté au maquereau(まくおぅみぃじゅてぅまぅこぅ)」となる。
フランス語までばっちりとは、いよいよサバ味噌で世界がつながる日も近い。
4. 東村アキコ『東京タラレバ娘』〜そのおいしさ、食卓で分かち合おう〜
すごく有名なこの作品。
未婚に焦る3人の女性が、毎夜居酒屋で女子会を開いてはタラレバいってる漫画である。
3人がいつもいる居酒屋「呑んべえ」は、この中の1人である小雪の父親の店だ。
看板娘として、小雪も手伝っている。
さて、ここまでサバ味噌をおいしく食べる人々を紹介したわけだが、小雪は逆に作る側の人間である。
東京タラレバ娘の第6巻に、いつもいっしょに飲んでる倫子&香が仕込み中の店に訪れ、「サバ味噌がパパッと作れる小雪すごい!」とびっくりしつつ、喜ぶくだりがある。
そう、サバの味噌煮はそのおいしさ故に、作ると喜ばれるのだ。
かくいう筆者も作ったことはないので、パパッと作れてしまうのはすごいと思う。
人類の平和のためには、サバ味噌の喜びは分かち合われなければならない。
つまり作れたら作りたい。
なので作り方を調べてみよう。
余談だが、サバは鮮度がいいうちに缶詰にされているため、へたに生サバから作るよりもサバ缶の方が鮮度がよかったりする。
市販のサバ味噌は甘みが強いので、水煮の缶詰に適当なタレをかけるのも楽でおいしいのでおすすめだ。
楽で体に良くておいしい。
サバ味噌は完全食品たる可能性を秘めている。
5. 森鴎外『雁』〜古典教養としてのサバ味噌〜
実は森鴎外の小説『雁』にもサバの味噌煮が出てくる。Wikipediaで知ったので読んでみた。
いやあ、いわゆる古典というのだろうか。おもしろい。
言葉遣いとか、いまはなんとなく使ってる言葉でも漢字で書いてあったり、端折らずに書いてあったりする。するとなんとなく上品な感じがして、きれいな言葉に触れているような気分になって快い心持ちである。
物語的にもおもしろい。ただ、いかにも文学らしいやるせない終わりをむかえる。そこはそういうものだから、なにも言うまい。
いま問題にすべきなのは、この作品におけるサバの味噌煮の所在である。
かなり後半になってからサバの味噌煮は登場する。そして、あんまりいい扱われ方はしていない。
というのも、サバの味噌煮は「車輪に一本刺さった釘のごとく、それをきっかけに起こるいろんな災いがどうのこうの」と例えられている。実際主人公がサバの味噌煮を食べなかったばっかりに、物語は読者が望まぬ方へと進んでゆく。
つまり逆に言えば、サバの味噌煮を食べていればハッピーエンドだったということである。
主人公はサバの味噌煮が大嫌いだから食べなかったのだ。
サバ味噌が悪いわけではない。単に「食べない」という選択をした主人公が悪いのだ。
主人公は「焼いたのならずいぶん食う」と弁明しているため、塩焼きか何かならよかったのだ。
サバ味噌に罪はない。
サバ味噌が2人を分けたのではなく、サバ味噌を食べなかった主人公が分けたのだ。
逆説的にいうと、サバ味噌には人をつなぐ効果があるといえよう。
あなたが食べるサバ味噌が、どこかで誰かと誰かの縁を結んでいるかもしれない。逆にあなたがサバ味噌を食べないことで、誰かと誰かの縁が実らぬまま、一生を終えていくかもしれないのだ。
そういうことを鴎外は教えてくれていたのである。まちがいない。
まとめ
いかがだったろうか。
サバの味噌煮はポピュラーなおかずゆえ、いろんな作品に登場する。
いろんな形でサバ味噌が物語に絡んでおり、作品によってそれぞれ様々な情緒を漂わせている。
そして得た結論は、どんな見方をしようと、どんなシチュエーションで現れようとも変わらず根底にある圧倒的な事実であった。
サバ味噌は、うまい。
これは人が人であるかぎり、サバがサバであり続ける限り、味噌がこの世に存在する限り、けっして変わることはない不変の事実だろう。
この記事を読んでサバ味噌が食べたくなったのだとしたら、それこそ筆者の最も喜びとするところである。
サバ味噌を食べればみんな幸せ。みんな健康。みんな天才。博識。世界レベル。
サバ味噌により、人類の進歩と調和は成されるのである。
おまけ
初めて知ったが、朝倉さやさんの「さばの味噌煮」という曲があるらしい。
なんか「民謡日本一」とか書いてあるので、日本一の民謡なんだろうと思う。「日本民謡選手権 全国大会優勝」とか。
たしかに民謡っぽいこぶしの効いたボーカルだが、とにかくよく通るパワフルな歌い方はすこぶる魅力的だ。
こんな人を知ることができたのもサバの味噌煮のおかげだ。
皆さんも素敵なサバ味噌ライフを!
(おわり)
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