大阪にあるインディーズ出版物のお店『シカク』さんに行った時に、とても興味深い情報を聞いた。
「真崎さん広島から来たんですね。こんど広島にエロ本の私設図書館ができるんですよ」
「オーナーは ”性研究家” の向井東冥さんという方です」
エロ本の私設図書館?! そして性研究家とは……?!
どちらも聞きなれないワードだな。でも『エロ』『性』って付いてるから、少なくとも私がキライな話じゃないのは確かだ。
以前より準備を進めておりました私設図書館ですが、紆余曲折あり古本と雑貨を販売するお店「ロマン堂書店」として8月1日の13時にオープンする運びとなりました。初日は17時頃まで営業予定です。営業日と営業時間は当面変則的になります。随時アナウンス致します。 pic.twitter.com/LnPKGfJmFw
— 東冥 (@Eros_in_Japan) July 31, 2019
その場で向井東冥さんのTwitterを見る。どうやら店舗は『ロマン堂書店』という名前で、私の生活圏にできるらしい。
行く以外の選択肢はないと思うんだけど異論はありますか? 大好きなタピオカ専門店が自分の生活圏にできたら行きますよね? それと同じです。
というわけで、さっそくロマン堂書店さんにお伺いしました。今回はその様子をレポートいたします。
目次
ロマン堂書店に行ってみた
こちらがエロ本の私設図書館『ロマン堂書店』。
赤い遮光板に書かれた店名。性研究家のお店と知っているからか、すでにエロく感じる。
安易にピンク色じゃないのが良い。赤に黒文字がノスタルジーなエロスを感じさせると思いませんか。
入店してすぐ目に入る黒カーテン。おお……さっそくだな。
店舗のほとんどがこの黒カーテンで覆われたエリアになっている。レンタルビデオ屋の大奥を彷彿とさせる雰囲気。黒カーテンがシースルー仕様なのが「分かってる感」あっていい。
カーテンの丈は揃えようね。
「18才未満禁止」
これを読んでいる読者に18才未満がいたら、ここでそっとページを閉じてほしい。ここから先は自己責任だ。そんな悲しい顔はしないでくれ。18才になったらまたここで会おう。18才以上のお友達はこのまま付いて来てくれ!
店主の向井東冥さんに話を聞いてみた
店主の向井東冥さんが出迎えてくれました。
せっかくなので、少しお話を伺ってみたいと思います。
はじめまして。今日は性についてエロエロ教えてください。よろしくお願いします!
いらっしゃいませ。いろいろ訊いてください。よろしくお願い致します。
Q. このお店のコンセプトは?
まず、このお店はどういったコンセプトの書店なんですか?
『ロマン堂書店』は古本をメインとした本屋として営業しています。その一角に私のコレクションの蔵書コーナーを設けて、私設図書館として開放しているのです。カーテンで仕切られた "18才未満禁止" のコーナーがそうですね。
コレクションは主に昭和エロ本になります。
すごい量のエロ本ですね……何冊あるんですか?
実は自分でも数えたことがなくて、よく分からないというのが本音です。
インドネシアは島が多すぎて政府も数を把握していないらしいですが、それと一緒ですね。
Q. なぜエロ本をコレクションするのか?
なぜ向井さんは昭和のエロ本を集めているのですか?
私はもともとコレクター気質があり、少年期から切手やコイン、キン消し、ピックリマンシール、古本漫画などを集めていたんです。エロ本はそのコレクションの中のひとつですね。
特に古本漫画はかなり集めていて、行きつけの古本屋で毎日のように買っていたんです。
なるほど、もともとエロ本は数あるコレクションの中のひとつだったんですね。
そうです。しかし大学進学で実家を出ていた時に、親に私のコレクションを全部売られてしまって……この時ばかりは親を崖から突き落としたい気持ちになりましたね(笑)。
もう一度ゼロから漫画をコレクションするモチベーションは残っておらず……しかしエロ本は手元に残ってたので、その後はエロ本をメインにシフトすることにしました。
大切なコレクションを勝手に捨てられるの辛い!! 私も姉とケンカした時、大切にしていたビックリマンシールのキラ(キラキラ光るシール)を目の前で千切られたのは今でも根に持ってます。わしのヘッドロココ……。
Q. お店を始めたきっかけは?
このようなお店を始めるきっかけは、なんだったんですか?
私の家は3階建なんですが、コレクション部屋が最上階にあり、そろそろ重量的に不安になっていたんです。
別の場所を借りてコレクションを移動させようと検討していたところ、この場所を紹介していただいたので、せっかくなので私設図書館として開放しました。ジャンルがジャンルなだけに誰でも利用できる私設図書館ではありませんが、利用したい方は一度ご連絡を頂けたらと思います。
確かに本自体が資料的価値の高い物ばかりですし、管理はしっかり考えないとですよね。
Q. 昭和エロ本の楽しみ方とは?
向井さんにとって、昭和のエロ本の魅力ってどこにあると思いますか?
昭和エロ本の面白いところは、時代によって局部の隠し方が変わったりするところですね。パンティーで隠すのは普通で、濡れティッシュ一枚で隠したり、逆にパンティー履いているのに真ん中だけ切り取っていたり……警察の規制とチキンレースをしていてとても興味深いです。
あとは読者投稿コーナーや広告コーナーも面白いですね。広告や読者の声から、当時を想像できるんですよ。
雑誌の表紙にある煽り文句とかも、文字が凝ってて面白いですね。
エロ雑誌の文字やフォント、描き文字をコレクションした本もありますよ。
あるんだ。
貴重そうなエロ本紹介
せっかくなので、貴重そうな昭和エロ本をいくつか紹介したいと思う。
カストリ雑誌
無数にあるエロ本の中で、素人の私でもこれは貴重な本だろうと感じたのがこちら。通称『カストリ雑誌』。
【カストリ雑誌】
カストリ雑誌(カストリざっし)は、太平洋戦争終結直後の日本で、出版自由化(但し検閲あり)を機に多数発行された大衆向け娯楽雑誌をさす。
これらは粗悪な用紙に印刷された安価な雑誌で、内容は安直で興味本位なものが多く、エロ(性・性風俗)・グロ(猟奇・犯罪)で特徴付けられる。(Wikipediaより引用)
内容はグラビアのようなものは無く、文章と簡単な挿絵のみで、現代人が想像するエロ本とは程遠いものです。しかし戦後の人々のフラストレーションを解消する、大衆の娯楽だったんです。大小いくつもの出版社が発行していて、パクリも横行して粗悪な雑誌も多かったようです。
いまのエロ本とは程遠いですが、確かに文章の内容は恋愛やエロですね。時代だなあ……。
おむつ愛好家の専門誌
取材時にすごく印象に残った雑誌がこの『おむつ愛好家の専門誌』。
中を少し読んでみたが、大人がおむつを楽しむための本であった。
この表紙はマイルドなやつを選んだが、他の本だとおむつを履いたおっさんのグラビアが表紙だったりと、いろいろとクセが強い。
この雑誌はおむつ愛好家の専門誌です。もちろんニッチすぎる本なので、普通には流通しません。値段も一冊3000円します。
とある愛好家さんのコレクションでしたが、高齢になり介護施設へ入所することになって持て余したようで。親族が私の知人に相談して、ここで引き取ることになりました。
私はよく分からない分野ですが、後世のために保管したいと思っています。
どんなにニッチなジャンルでも次世代へ継承することは大事ですね~!
おわりに
当日は私の他にもお客さんが出入りしていた。
その中に女性のお客さんがいたのだが、「昭和のランジェリーを鑑賞するために来た」と教えてくれた。
さっそく貴重な書籍が集まった私設図書館としての役目を果たしており、コレクション開放は意義あるものだと思った。
なおエロ漫画は積極的には集めてはいないようで、数はそこまでだった。
私は中学生の時、友人の兄の部屋で読んだペンギンクラブが読みたかったので少し残念だった。これを読んでいてペンギンクラブを処分しようとしている読者がいたらちょっと待ってほしい。「チョ!マテヨッ!!」と言いたい。
あなたのエロ本は誰かの役に勃つかもしれない。寄贈という選択肢も視野に入れて本と向き合ってほしい。勃つはわざとタイピングしたから直さないぞ。
ちなみに上の絵は、ストリップ劇場の踊り子さんに描いてもらった向井さんの似顔絵。なんと女性器に筆を入れて描いたものらしい(!?)。
最後にすごいやつブッ込んでくるじゃんか……。
向井東冥さんの守備範囲はエロ本だけでなく、エロ広告やエロ自販機の調査、アダルトショップ訪問、ストリップ劇場訪問などに精通しており、正に性研究家である。興味のある方は是非訪問してみてほしい。
【ロマン堂書店】
住所:広島県広島市西区横川町2-4-6 杉田ビル1階
Twitter:@romando_shoten
【私設図書館に関する大事なお知らせ】
久しぶりの投稿がこんな形になって申し訳ないのですが、6月16日付で私設図書館を閉館することとなりました。
開館時は全国から多くの方にお越し頂き、ありがとうございました。皆さまの研究の一助になれたなら、これほど嬉しいことはありません。— 東冥 (@Eros_in_Japan) June 15, 2020
ロマン堂の私設図書館は、残念ながら2020年6月にて閉館となってしまったようです。この記事が、図書館のアーカイブの一旦となれば嬉しいです。
(執筆:真崎真幸)