ツイッターのタイムラインを追っていると、「JR高田馬場駅内にあったいろり庵きらくが2021年1月18日に復活!」というつぶやきが目に飛び込んできた。
いろり庵きらく高田馬場店というと、2年前の2019年3月31日に閉店するまで新宿〜池袋間の貴重なエネルギーチャージポイントとして、多くの山手線ユーザーに愛されてきた内そば店である。それが緊急事態宣言下に復活とは、苦難の中だけに喜びもひとしおである。
ところで、コロナ禍で駅そばはどうなっているのだろうか?
勤め人にとって移動手段(電車)のすぐ横で営業している駅そばは、中でも改札を通らなくてもお店に入れる内そば店は誠に重宝な存在だ。降車駅には駅そばはないけど2つ先の駅まで行って食べよう、池袋の駅内はこの時間帯混んでるからここの駅そばで済ませておこう、といった使い方ができるからだ。
通勤ラッシュ時は内回り、外回りで1〜2分間隔で運転されている山手線は駅そばユーザーにとって至極の路線と言えるだろう。
1都3県に2度目の緊急事態宣言が発出されてから2週間余が経った。飲食店への営業時間短縮、外出自粛、テレワークの推進といった対策によって駅そば店は三重苦というべき状況が続いている。
テレワーク、リモートワークの普及で当然、電車通勤する人の数も減っているだろう。ということは駅そばを利用する絶対数も減っているはず。この度復活したきらく高田馬場店のような店舗は希少なのかもしれない。
そこでコロナ禍の山手線の駅そば店の現状を探るべく全30駅をくまなく巡って調査することした。
コロナ禍で駅そばはどうなっているのか
ちなみに、先ほどから「内そば、内そば」と言っているが、 “内そば(うちそば)” とは改札内にある駅そば店のこと。逆に改札外にある店舗(例・きらく秋葉原店)は “外そば(そとそば)” である。今考えて名付けた。今回は内そばに限定した調査である。
また、これはとても線引きがとても難しいのだが、たとえ駅構内にあってもかき揚げそばが一杯500円以上の値段がするお店は除外させてもらった。駅そばの大きな魅力である手軽さを考えた場合、1コイン以内というのは大切な気がするからだ。それ以上の値段のお店はまた違うジャンルの料理という見解である。
線引きをかき揚げそばにしたのは、かき揚げそばこそが駅そばのスタンダードメニューだからだ。かけそばだと物足りない、カツ丼セットでは手に余る、といった場合にかき揚げそばは腹にちょうどいい一杯なのである。
さらに、味という指標を図る上でもかき揚げそばに勝るメニューはない。ツユにかき揚げから染み出た油とネギの風味が混ざり、えげつないほどかけた七味唐辛子と共にそばをすすり込む。これこそが駅そばの醍醐味である。土山しげる先生の漫画『極道めし』でもかき揚げそばが取り上げられていたし。
調査の方法は至って簡単。ひと駅ひと駅の全ホーム、全改札口を駅そばがないかひたすら歩く、である。ただ、渋谷、新宿、東京といった巨大で複雑な駅や、日暮里、有楽町などの筆者にとってあまりなじみのない駅に限っては、駅員さんに「ホームに駅そばはありますか?」「改札の中におそば屋さんはありますか?」と聞き取り調査で済ませた。
17駅で23店舗の駅そばが営業
2日かけての調査結果がこちら。
【山手線30駅にある駅そば(内そば)店】
(※「NEW!」は1年以内に開店・営業再開した店舗)
(※2021年1月22日時点)
駅 | 店名 | 場所 |
新宿 | そばいち | 南改札前 |
恵比寿 | そばいち | 東口改札前 |
目黒 | いろり庵きらく | 1・2番線(山手線)ホーム |
五反田 | 道中そば | 1・2番線(山手線)ホーム |
大崎 | 生そば・うどん あずみ | Dila大崎内 |
品川 | 常盤軒 | 1・2番線(山手線)ホーム 13・14番線ホーム |
かき揚げ蕎麦 吉利庵 | エキュート品川サウス内 | |
田町 | いろり庵きらく | 北改札前 |
東京 | いろり庵きらく | 京葉線ホーム上 |
神田 | そばいち | 北口改札前 |
秋葉原 | そばいち | TOKYO FOOD PARK内 |
新田毎 | 6番線ホーム横 | |
御徒町 | いろり庵きらく | 北口改札前 |
上野 | 爽亭 | 7・8番線ホーム 11・12番線ホーム |
大江戸そば | 9・10号番線ホーム | |
鶯谷 | あじさい茶屋 | 南口改札前 |
西日暮里 | いろり庵きらく | 改札前 |
田端 | いろり庵きらく(NEW!) | 北口改札前 |
池袋 | 爽亭 | 中央1・2改札コンコース |
いろり庵きらく(NEW!) | 中央1・2改札コンコース | |
高田馬場 | いろり庵きらく(NEW!) | 早稲田口改札前 |
調査の結果、山手線全30駅のうち17の駅で、23店舗の駅そば店が営業していることが分かった。実は1年ほど前に某雑誌で同じような企画をしたことがあるのだが、前回の調査時に比べて減るどころか、3店舗が新たにオープンしていたのである。
田端(2020年12月15日)、池袋(2020年10月19日)、高田馬場(2021年1月18日)の新店舗は、いずれも東日本フーズが運営する「いろり庵きらく」だ。
この3駅の中でも、池袋は中央1・2改札を挟んだ同じコンコース内に「爽亭」があり、駅そばファンには嬉しくも悩ましいエリアとなった。
同じ系列店で最大90円の値段差
また昨年末にオープンしたきらく田端店は、それまでの「本場さぬきうどん 親父の製麺所」から居抜きで入った形だ。3つの新店舗のオープンによって、山手線の駅そばは「きらく」と「そばいち」の2強の様相がさらに深まった感じだ。
きらく、そばいち以外にも「道中そば」「生そば・うどん あずみ」「大江戸そば」「あじさい茶屋」も同じ東日本フーズの系列店だが、どの店舗もそれぞれの特色、味わいがある。
たとえば、目黒のきらく、五反田の道中そば、上野の大江戸そばは、今や貴重となったホーム上で営業している店舗だ。また、鶯谷のあじさい茶屋は改正健康増進法が施行される前は2階がまるごと喫煙席になっており、食後の一服が格別だった。
さらに、同じ東日本フーズ系列でも店舗によって値段が異なっている点も見逃せない。
【東日本フーズ系列店のかき揚げそばの値段】
- あずみ:480円
- そばいち:460円
- きらく:440円
- あじさい茶屋:410円
- 大江戸そば:390円
- 道中そば:390円
(※2021年1月時点)
最大で90円の差があっては、同じ会社の系列店だからと一口に済ませるわけにはいかないだろう。
駅そば界の横綱は北の上野、南の品川
山手線の駅そば全体の特色でいうと、改札内で3店舗ずつ営業している上野が “北の横綱” 、品川が “南の横綱” と言えるだろう。
上野なら「爽亭」、品川なら「常盤軒」と、それぞれの土地に確固たる地盤を築き上げた店舗がある点が横綱たる所以である。ちなみにエキュート品川にある「吉利庵」も常盤軒と同じ系列店だという(※実は吉利庵のかき揚げそばは520円なのだが、絶品の味も考慮して僅差で駅そばに入れさせていただいた)。
同様に、秋葉原の「新田毎」もまた大手ではなかなか真似をできないサービスで、固定ファンを掴んでいる駅そば店だ。
さらに今回の調査を通して、6駅連続で駅そばのある東京〜鶯谷エリアや、5駅連続の恵比寿〜品川エリアが “駅そば激アツ地帯” なこと、逆に3駅連続で駅そばのない代々木〜渋谷間、浜松町〜有楽町間、駒込〜大塚間が “駅そば不毛地帯” なことなども分かった。
なお山手線30番目の駅として昨年3月に開業したばかりの高輪ゲートウェイは電車を降りた瞬間、その開放的な造りから駅そばがないのを直感した。泉谷しげるなら「♪そばツユの匂いのしない駅を出て」と歌っていただろう。恵比寿〜田町の駅そばラインをつなぐ新駅として今後に期待したい。
マスク越しでも伝わるやりとり
コロナ禍にあって、業種や社内のポジションによってどうしてもテレワークやリモートワークができない勤め人も少なくないだろう。そんな人たちにとって、山手線の改札内で営業している内そばは心強い限りだ。
そういえば調査中、五反田の道中そばでかき揚げそばを食べていると、次のような場面を目にした。
女性客がカウンターに「おそば。ネギ抜きで」と食券を出すや、その声に店員さん(女性)が「おっ」と言った感じで顔を上げ、「髪型、似合うね。最初見たとき分からなかった」と反応したのだ。
上野の爽亭や大江戸そば、目黒のきらくもそうだったが、通勤ラッシュ時のホーム店が営業を成り立たせるにはお店とお客の阿吽の呼吸が必要となる。そして通勤の合間の忙しない食事でも、マスク越しであっても、注文の仕方でお客の髪型の変化まで気づいてくれる店員さんもいるのである。
最後に、今回調査したほとんどの駅そば店でアルコール消毒の用意やカウンターの仕切りといったコロナ対策を取っていたことを付け加えておきたい。どのお店も政府の時短要請に伴って夜は20時までの営業だが、今後も足を運べる限りは駅そばでエネルギーチャージして仕事に励みたい。
(執筆:ボニー・アイドル)
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