お金の話をする時などに「非常に少ないもの」の例えとして、「スズメの涙」という言葉が使われる。
たしかにあのビーズのように小さな目玉からこぼれる一滴は、さぞかし微々たるものだろう。
しかし金額の大小は、液体の量だけでは簡単に測れない。 同じ一滴でも水道水とシャネルの香水とでは、金額に天と地の差があるのである。
それではたった一滴のスズメの涙を用意するのに、一体どれほどの費用がかかるのか。
「スズメの涙」を使いたがる世のご謙虚さん方の新たな指針となるべく、私は試算と検証を試みた。
1. スズメを用意するのにかかる費用
日本人には馴染み深いスズメだが、これを飼うとなると実は非常に手間がかかる。
まずペットとしての入手ルートは基本的に存在しない。 野生のスズメを捕獲しなければならないのだ。
しかしスズメは鳥獣保護管理法によるところの「狩猟鳥獣」に当てはまるので、狩猟免許を取得して銃や罠や網などを用いて狩猟する必要がある。
環境省のHPによると、狩猟免許関連にかかる手続きの経費は以下のとおりだ。
安……くはない。
少なくとも中高生が月々のお小遣いを「スズメの涙だよお〜」とか言っていれば、そいつは最低でも4万はもらっていることになる。 遠慮せずにたかろう。
さらに言うと上の表は猟具代別の金額である。 各猟具の最低金額を調べてみると以下のとおりである。
これまたえっぐい。
集団の鳥を捕獲するのに有効とされている無双網の値段は、2万5千円ほど。
狩猟免許と合わせて最低でも約6万5千円……都内のワンルームの家賃くらいにはなる。
同僚からいくら昇給したのか聞かれた時に「スズメの涙みたいなもんよ」とごまかすと、嫌味に聞こえる可能性があるので気をつけよう。
そしてさらに猟銃を揃えようとするならば、合計40万円以上はかかってしまうようだ……中古の自動車なら買えてしまう。
そもそも猟銃でスズメを生け捕りできる気がしないが、ゴルゴ13や次元大介であればなんとかなりそうである。
フリーランスの方はダンディなおじさんから「報酬はスズメの涙ほどですが……」と仕事を依頼された場合に限り、夢を見てもいいかもしれない。
念のため「そのスズメは何の猟具で捕獲しましたか?」と確認するのもアリだ。
ちなみに鳥獣保護管理法では、狩猟免許があれば手掴みで捕獲するのも一応許可されている。 試しに近所のスズメを手掴みしようとしてみたが、どういうわけか全然見つからなかった。
こんなに探すの大変だったっけ? と気になってネットで調べてみると、どうやらスズメは半世紀前と比べて約90%ほど減少しているらしい。 原因は住宅環境の変化やカラスなどによる捕食のせいだそう。
「スズメの涙」は希少性の点から見ても、決して安いものではなくなっているのだ。
2. スズメを泣かせるのにかかる費用
万が一合法的にスズメを捕獲した場合、どのように涙を採取するかもあらかじめ想定してみた。
私はスズメはおろか鳥類が涙を流す場面に遭遇したことがない。 そもそも鳥って泣くのか?
知り合いでブンチョウ(鳥網スズメ目)を飼っている人に聞いてみたところ、「泣くことには泣くが、目が乾いた時か病気の時しか涙を出さない」とのこと。
つまりスズメに鳥人間コンテストの動画を見せて感動させても、涙は一滴も流さないのである。
ではスズメを人為的に泣かせるには、目が乾いたり病気になるような環境にスズメを置けということか……?
そこで目を光らせてくるのが、動物愛護管理法である。 それによると、愛護動物に虐待を行った者は最大で100万円の罰金に処せられるそうだ。
1滴100万の涙……もはやダイヤモンドと同等の一粒である。
ここに来て凄まじいインフレが発生した。
諭吉の札束を「スズメの涙」と一蹴できる漫画の世界のような人間……一度は見てみたいものである。
しかし「スズメの涙」の100万は、虐待による薄汚れた100万だということも心に留めておかねばならない。
もし依頼主から「報酬はスズメの涙ですが……」と本物のスズメの涙を見せられても、誘惑に負けず確固たる態度で受け取りを拒否しよう。 保健所か警察署への通報も忘れずに。
3. スズメの涙の原価低減はできないのか?
調べれば調べるほど「スズメの涙」の値段が跳ね上がっていく。
このままでは世のご謙虚さん方が萎縮して、「スズメの涙」という言葉を使わなくなってしまう。
私は言葉狩りがしたかったわけではないのに……。
何か、何か手はないものか。
スズメの涙を安価に入手できるような、高価なカニの代わりにカニカマで安く済ますような術は……。
あっ。
そうだ。カニは天然ものだから高いのだ。カニカマは人工で作られているから安いのだ。
それならば……スズメの涙も自分で作ればいいじゃない!
4. スズメの涙(人工)の原価
というわけでスズメの涙をDIYすることにした。
今回用意したのは、
- スズメのぬいぐるみ
- コンタクトレンズ用の人工涙液
- スポイト
の3点。
スズメのぬいぐるみはピンキリだが、今回は安いながらも最低限リアリティのあるものをアマゾンで選んだ。
制作方法は以下のとおり。
スポイトに人工涙液を移し、
それをスズメに……
セロテープで装着。完成!
完成度とかクオリティとかを意識してはいけない。 何故なら今回の趣旨は、いかにスズメの涙のコストを抑えるかだからである。
少しでも多くのユーザーにスズメの涙を使ってもらうため、製作者が費やした涙ぐましい努力(約2分)を感じてもらえれば幸いだ。
それではご待望の、スズメが涙を流す瞬間をご覧いただこう。
ついにスズメが泣いた。
小さな瞳には不釣り合いな大粒の涙がこぼれる姿は、見ていて思わずもらい泣きしそうになる。
そして気になるお値段はというと……
- スズメのぬいぐるみ:1458円
- 人工涙液:162円
- スポイト:108円
- セロテープ:1円(計算はテキトウ)
合わせて1729円!!
およそ2000円弱……なかなか「スズメの涙」感がある金額に収まったのではないだろうか。
結論
『「スズメの涙」の原価は、人工ものは最低1729円。天然ものは約4万〜100万円以上(+前科付き)』
いかがだっただろうか。
これで世のご謙虚さん方は、「人工か天然か」さえ気をつければ、大手を振ってこの言葉を振りかざすことができるはずだ。
そういえばこの記事についてクレスタ編集長から、「原稿料はスズメの涙ほどですが……」と言われていたのを思い出した。
人工か天然か、どっちだろうなぁ〜!
(おわり)
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