「有名な漫画やアニメの実写化は失敗する」という法則をよく耳にする。
確かに思い返してみると、期待して観に行った作品の実写化は残念な仕上がりとなっており、心底絶望した記憶がほとんどだ。
でも実写化というのは、それほど難しいものなのだろうか。
私個人の仮説として、いきなりファンタジーのような複雑な世界観などを実写化するのではなく、もっと身近にあるものを実写化していく方が、実写化スキルの鍛錬をつめるのではないかと考えている。
そこで今回は、私たちが日常的に使っている「Webメール」を実写化して、実際にそれを送信してみようと思う。
実写化するWebメール紹介
まずは今回使用する3つのメールサービスを紹介しよう。
1. Yahoo!メール
名称 | Yahoo!メール |
開発 | Yahoo! |
容量 | 10GB |
備考 | Yahooはこの前LINEと統合していたからすごい |
2. Gmail
名称 | Gmail |
開発 | |
容量 | 15GB |
備考 | 最近よく聞く「GAFA」の「G」の部分らしいからすごい |
3. Outlook
名称 | Outlook |
開発 | Microsoft |
容量 | 無制限 |
備考 | 自分の勤め先で使っているからすごい |
一見、Outlookの容量無制限が魅力的に思えるが、一般人には細かな違いはわからないものである。
それぞれの特徴を確認するためにも、メール制作の準備にとりかかろう。
Webメールの封筒を作る
1. Yahoo!メール
Yahoo!メールを作るにあたって百均で用意したのが、
の、2つである。
さっそく制作にとりかかろう。
完成! 作成時間は2分弱。あっという間にできあがった。
Yahoo!メールの「メール作成」におけるユーザビリティは実写化しても抜群である。
この調子で残りの2つも作成しよう。
2. Gmail
こちらもやることはYahoo!メールと基本的に同じ……と思ったのだが、Gmailの封筒を眺めてあることに気がついた。
封筒の下部に「八」の字ののり付けがないのだ。
Yahoo封筒をはじめ、通常「ダイヤモンド貼り」の洋封筒は、ふたをする箇所には下のようなのり付けのあとができる。
しかしGmailにはこの「八」の字がなく、代わりに「×」の字のようなあとがあるだけだ。
洋封筒の構造上、あの位置に「×」の字にのり付けをすることは決してない。
謎が謎を呼ぶGmail封筒の構造。その答えはGmailのブラウザ版にあった。
ブラウザ版のGmailを開く際、ローディング中に1秒程度Gmailの封筒がアニメーションで現れる。その様子を抜粋したのでごらんいただきたい。
Gmail封筒の「×」字は、片方の線はのり付けで、もう片方の線は影だったのだ。なんとまぎらわしい……。
ここで問題になってくるのが、この不思議なのり付けがされた封筒の存在である。
便宜的にこののり付けを「襟合わせ型」と呼ぶが、襟合わせ型の洋封筒は、文房具店やネット通販でいくら探しても見当たらない。
結局みつからなかったので自作することにした。
DIYを強いる時点でGmailのユーザビリティは欠如していると言うほかないが、ここはグッとこらえて襟合わせ型封筒を作ってみよう。
Gmail封筒の完成!
作成時間は切り取りから色塗りまで含めると20分程度。Yahoo!メールの10倍を要するという残念な結果となってしまった。
3. Outlook
OutlookもGmail同様、のり付けが片方のみだった。
しかものり付けの向きが、襟合わせ型とは反対の左前。言うなれば「死装束型」である。
Microsoftは外資なので死装束の概念がないのは仕方ないとは思うが、一度意識してしまうとかなり不吉な封筒に見えてくる。
送り先が縁起を気にするタイプだった場合、Outlookの使用は一旦検討すべきかもしれない。
まあ、一応作るけどさ。
死装束型封筒の封筒完成! 色合い的に見づらいが、ちゃんと左前のデザインとなっている
しかしOutlookはこれで終わりではない。
死装束型の封筒の他に、2つほどよくわからない添付ファイルがあるのだ。
紙でテキトーに作って代用することもできなくはないが、見栄えも実用性も皆無なゴミを送り付けるのは、送り先に失礼である。
「添付するなら真心も」をモットーに、この2つの添付ファイルに価値を見出しつつ制作を進めたい。
まずはモザイクタイル風のやつから。
一度モザイクタイルっぽいと思ったらそうとしか見えなくなったので、100均で買ったガラスタイルを便箋の裏に貼り付けることにした。
一つひとつ貼り付けて作っていく。
続いて青い四角形と白い円のやつ。
100均で30分強さまよった結果、
これらを組み合わせたものだろうと結論づけた。コストと実用性とのバランスを考慮すると、恐らくこれが最適解なのである。
そしてこれらを死装束型の封筒と組み合わせて……
完成! まあまあ似せられたと思う
制作時間はおよそ1時間。Yahoo!メールの30倍である。
添付ファイルの準備と作成に、ずいぶんと工数をさかれてしまった。
Webメールの本文を作成する
完成した3種のメールは、大学時代の友人であるT君に送信することにした。
T君は現在山口県で働いており、もう3年近く会っていない。
なお今回は公平をきすために、メール本文は3種全て一字一句同じものとする。
実写の世界ではコピーアンドペーストが無効なので、1枚ずつ書かなければならない。
誤字をしたら最初からやり直しである。これが実に面倒臭い作業だった。現実でもCtrl + Zが有効だったら便利なのにな……。
そう思ったらCtrl + Zしたい過去が次々にフラッシュバックしてつらくなったので、この日は作業をやめた。
続けて封筒に本文を格納しつつ、アドレスを記入する。
完成!
何より目に付くのがOutlookのパンパン感である。お前、容量無制限じゃなかったっけ。
全メールの準備が完了したところで、いよいよ送信の時である。
それぞれの通信環境は、果たしてどれほどであろうか。
Webメールを郵便局から送信する
今回利用したのは、東京都港区にある港芝四郵便局。ここから3種のメールを山口県のT君に送信する。
なお各メールの通信速度を測定するため、全ての封筒にそれぞれ郵便追跡サービスを使うことにした。
郵便追跡サービスを使う方法はいたって簡単で、郵便局の受付で160円を支払うと手配してくれる。
ちなみに通常の封筒の送料は第一種定形の84円なのに対して、Outlookだけガラスタイルの重さにより第一種定形外と扱われて210円もかかってしまった。
実写版Outlook、今のところいいとこなしだ。
こうして郵便局で支払いを終えて、3つの問合せ番号を獲得した。早速HPで状況を確認しよう。
2019/12/13の17:20に、実写で一斉に送信されたメール。スピードが命の情報社会において、最速の座を制するのは一体どのメールであろうか!?
ぜんっぜん進展しない……。
通常の郵便物だからあたりまえの状況なのだが、今回のテーマはWebメールの実写化である。
地球の裏側にも数秒足らずで届くあのWebメールが、東京-山口間でこんなにモタモタしているのかと思うと、違和感しか覚えないのである。今まで当たり前のように使っていたけど、Webメールのあの速さって異常だったんだな。
そしてようやく進展があったのは、翌日の夕方であった。
山口県の郵便局に届いている!
24時間26分の時を経て、3種のメール達はやっとT君の近所の郵便局にたどりついた。到着時刻は案の定ぴったり同じ時間となっている。
いや、きっとメール達は1秒でも差をつけようと、郵政バイクのキャリーボックス内での場所取りとかでしのぎを削っていたに違いない。
そして残すところは、山口の郵便局からT君の家に送信されるだけ。
……と思われたが、ここで新たな問題が。
この日の翌日12/15は日曜なので、郵便の配達が休止となってしまうのだ。
もう文句は言うまい。多少の無念を感じながらも、Webメールの365日休みなく送受信を担い続けている仕組みって、実は凄まじい神機能だということに気付かされた。
Yahoo!メールもGmailもOutlookも、(実写じゃなければ)みんな本当にすごいよ。
翌々日16日の昼過ぎに、メール達はT君のもとに無事送信された。
トータルでかかった時間は67時間38分。もはやWebメールの面影もない……。
実写版Webメールを受け取ったT君のリアクション
12/16の夕方、T君が実写メールを受信した旨をLINEで連絡してくれた。
ちゃんとT君のもとに届いている!
受信するまでやたらと時間がかかった分、Webメールでは味わえない小さな感動があった。
ふるさと納税の封筒と見比べてもわかるように、どのメールもなかなかの存在感を放っている。あれらの封筒は、印象に残るよう綿密に計算されたデザインなのかもしれない。
そしてT君的には、特にオレンジ色のYahoo!メールの封筒に目を引いたとのこと。
結論を述べると、実写化においては、作成のしやすさ、予算の安さ、そして目立ちやすさと三拍子揃ったYahoo!メールが1歩秀でていた。
ただし送信時間のせいで全体的に100歩下がった上での1歩である。
反対にOutlookは製作が難航して予算も余計にかかり、監督の個性的な演出も受け手に疑問を与えるだけで終わるという、典型的な「コケた実写化作品」の様を体現していた。
まあこの場合の監督は筆者なので、Outlook自体に罪はありません……原作(Webメール)の方は容量無制限とか普通にすごいから、みんな使ってみてね。
あとGmailは全体的にパッとしなかった。
世の中には実写版Gmailのように話題にすら挙がらない実写化作品もあると思えば、「悪名は無名に勝る」という言葉は真理なのかもしれない。その点でOutlookはヒール枠として健闘したと言えよう。
「実写化」は難しいけど、失敗にも価値がある
身近で手軽そうなWebメールを実写化するだけでもこの苦労。様々なアクシデントに見舞われながら、その都度試行錯誤を余儀なくされた。
空想の表現物を現実世界に再現するという行為は、想像以上にエネルギーを費やすものであった。
世の実写化作品を担う関係者の方々には、ただただ脱帽するばかりである。
「実写化は大抵失敗する」という言葉も今となっては身に染みる思いだが、「失敗したら失敗したらで、原作(今回はWebメール)の見落としていた魅力を再確認できる」というのも、実写化ならではの魅力であるということも学べた。
つい最近までは「実写化」の響きにほとんど希望を持つことができなかったが、今なら少し前向きに応援することができそうだ。『ヲタクに恋は難しい』と『約束のネバーランド』の実写化、楽しみにしています。
(執筆:こやしゅん)