神奈川県・川崎駅から徒歩でおよそ5分。
新しめなマンションが立ち並ぶなか、突如その異質な ”城” は現れる。
ゲームセンター・ウェアハウス川崎。またの名を「電脳九龍城」。
レトロでスチームパンクな世界を再現したゲームセンターだ。
運営元はゲオホールディングス。2005年にオープンし、2009年にリニューアルされて以来、国内外に熱狂的なファンを持つようになった。なお18歳未満は入場できない。大人だけの遊び場である。
禍々(まがまが)しい入り口。
こ、これがゲームセンター……?
(あっ、撮影してる……)
実はこのウェアハウス川崎、2019年11月17日で閉店とのこと。(※足を運んだのは2019年11月11日)
ここまでの完成度の建造物が、終わってしまうなんて……。
今回はこのゲームセンターを、インターネット上にアーカイブしていく。
良いものは記録されるべきだ。
撮影に関してのルールです
携帯電話での記念撮影程度の簡単な撮影、手持ちのカメラでも撮影可能ですが、機材を使用しての大がかりな物、モデルさんを使っての撮影、コスプレをしての撮影、通路の占拠、その他ほかのお客様に迷惑に成りえると従業員が判断した場合は、撮影を中断して頂く場合があります— ウェアハウス川崎 電脳九龍城砦 (@warekawasaki) October 16, 2019
なお、撮影ルールに関しては上記のとおりアナウンスがある。
他のお客様の迷惑にならないよう、慎重に撮影していきたい。
ここはディズニーか何かか……?入場から禍々しい雰囲気がただよう
ウェアハウス川崎の入り口をくぐると、そこは赤い照明がゆらめく、薄暗い空間。
エレベーター前。
こんなに禍々しいエレベーター、ホラーゲームの中でしか見たことないよ。
もう少し先に行くと、錆びたトタンと、鉄製のドアが立ちならぶ廊下へ。
生活音や中国語のようなものが、どこかから聞こえてくる。演出がすごい。
廊下の奥には、半裸のなまめかしい女性(人形)が横たわっていた。
とつぜん目に入ってきたので、「うおっ!」と叫んでしまった。ふつうにびっくりした。
1990年代香港のスラム街・九龍城砦を再現。ウェアハウス川崎
寂れすぎた空間に、ゲーム筐体(きょうたい)が立ち並ぶ。
こ、これがゲームセンター?
薄暗闇に浮かぶ「九龍(くーろん)」の文字。
看板などの文字は、すべて手書きとの噂。
なおウェアハウス川崎は、1990年代まで香港に実在した「九龍城砦」と呼ばれる巨大なスラム街をモデルにしている。
そう、ここはスラム街を再現したゲームセンターなのだ。
現地の生活を演出するためか、ご丁寧に洗濯物まで干されている。
細部へのこだわりに、異常な執念を感じる。
「鶏肉を売る露店」の演出。照明もリアルだ。
写真だと分かりにくいが、一番右の換気扇だけ動きがゆっくりであった。
故障の演出だろうか。エイジング加工がすごい。
柱に巻き付けられる、なぞの有刺鉄線。
「九龍城あるある」なのかは分からないが、すごくそれっぽい。
九龍城の民家の中まで再現されている。
ちなみに中に入ることはできない。
葉っぱやツタが這う、壁と屋根。
なお屋根に落ちてるゴミなどは、香港から国際便で取り寄せているとか。そ、そこまでやるか……。
赤いブラとパンティーが干されていた。
国際便で取り寄せたのか、メイドインジャパンなのか。そこだけが肝心だ。
エレベーター。はり紙が乱雑に貼られている。
「閉店のお知らせ」の表示だけ新しくて、妙な違和感がある。さびれた街の電気屋においてある、ペッパー君みたいだ。
配管に貼られるはり紙。治安のわるさが垣間みられる。(※もちろん演出)
なんか妙に高いものが売ってるな……と思ったら、外国人メイドのようだ。「菲傭=フィリピン人メイド」「印傭=インド人メイド」。
人身売買とかじゃなければいいけど……。(※もちろん演出)
「禁貼街招」と書いてあるが、これは「はり紙禁止」という意味だろうか。
そのためか、ここにはり紙は1枚しか貼られていなかった。治安がよい。
誤字った跡すらも、スラム街においては演出のひとつにみえる。本当に演出かもしれない。
消火栓もしっかりサビ加工。
有事のときに本当に使えるか、すこしだけ心配である。
ただのレトロ観光地じゃない。れっきとしたゲームセンターなのだ
そうそう、忘れそうになるが、ここはゲームセンターなのだ。
決してただの九龍城砦のスラム街レプリカではない。主役はあくまでゲームだ。
レトロなレーシングゲーム。
ボクは平成4年生まれなのだが、このタイプのレーシングゲームはあまり見たことがない。昭和のゲームだろうか……。
超懐かしのインベーダーゲームも。
懐かしとは言ったが、ボクはもはや初めて見た。まだ現役のものがあったのか。
(※追記:こちらはインベーダーではなく『ギャラガ』とのご指摘がありました。ご連絡ありがとうございます)
この空間でもっともイカれてる筐体がこちら。自動販売機と、クレーンゲーム。
錆びてるとか、汚いとか、スチームパンクとか……そういう次元じゃないオーラを感じる。
急にテンション高くてびっくりした。
プライズ(景品)は、こういってはなんだが、うん……たいしたものはなかった。
せっかくなのでチャレンジ。禍々しいオーラをはなつクレーンゲームだが、もちろんちゃんと動く。
なお、プライズは獲得できなかった。
普通に新しめなゲームもある。こちらはおなじみのホッケーゲーム。
これまでのもそうであるが、ゲーム筐体自体はとてもキレイに整備されている。レトロ感は、あくまで演出だ。
最新のゲームも置いてある。ぜんぜんレトロじゃない。
レトロ空間に最新ゲームがあると、どこかバグった世界のようにみえる。AKIRAかな?
ゴリゴリに最新鋭のゲームも。
レトロなんぞ知ったことか。ここは2019年のゲームセンターだ。
ふと振り返ると、奥のほうには特段レトロではない、ごくふつうのゲームセンターが広がっている。
ここは ”現実と異世界の狭間” なのだ。
奥のふつうのゲームセンターに関しては、後述する。
色情ただよう広告が気になる
ウェアハウス川崎には、オトナの世界ただよう、ちょっぴりエッチなはり紙広告がいたるところに貼られている。
「69 大吹奏」ってなんだろう? ボクにはちょっと分からないなぁ。
余談だが、香港の九龍城砦では、売春などの違法行為がなかば公然とまかり通っていたとか。
「花城夜總會」。
ビジュアルと字面からの印象だが、暴走族の女総長っぽさがある。
ちなみに「夜總會」はナイトクラブという意味らしい。フラワーシティナイトクラブ、といったところか。
「金色時代夜總會」。
こちらはバブル期のナイトクラブかな。今夜だけでもシンデレラボーイ。ドゥ・ユ・ワナ・ダンス・トゥナーイ!
こちらはまごうことなき「おしり」です。エッチですね。
よくみると「性地 制限」と書かれている。
性が制限された地域。独自の治安維持がなされていますね。
豊胸手術が気になる
エッチな広告以外に気になったのが「豊胸系」のはり紙広告。
ウェアハウス川崎には、さまざまな種類の豊胸手術広告がある。しかもなぜか、そのすべてが速さで訴求しているのだ。
上のは「快速豊胸」。急行電車なみの速さで手術してくれそうだ。
こちらは「爆速豊胸」。
豊胸手術に速さが求められる世界線には、いまだかつて出会ったことがないのだが……もしかすると香港の九龍城砦では、速さが求められていたのかもしれない。
風俗のマスターから「明日までにA→Eカップになっといて!巨乳好きのお客さんが入ってるから!」みたいなやりとりがあったのかも。
「音速豊胸」「激速豊胸」。ついに音の速さにまでなったか。
音速とは、時速1234.8kmのこと。新幹線の約4倍の速さで手術するぞ。
「光速豊胸」。
ついに光の速さ(約30万キロメートル毎秒)にまで達した豊胸手術。まばたきする間に、おっぱいが3000個くらい増えてるぞ。
いろんな豊胸手術があったが、個人的に一番好きだったのはこれ。
どことなく物悲しい「快速豊胸」。豊胸にエモを感じる日がくるなんて、思わなかったよ。
病気が気になる
本家・九龍城砦はスラム街ということで、おそらく病気も蔓延してたのだろう。
病気治療の広告も多く確認できた。
こちらは「皮膚病」のはり紙広告。「満面豆豆」の文字が、おもしろさと狂気のはざまで揺れている。
「淋病」「梅毒」の文字。どちらも性感染症である。
先ほども述べたが、本家・九龍城砦では売春が頻繁におこなわれていた。
性感染症は、あるいみ日常的な病気だったのだろう。
「牛皮癬」「泡疹股」「香港癬」「皮膚病」
「癬」とは、たむしなどのカビ由来の皮膚感染症をあらわす言葉。
衛生環境が良くなかったため、本家・九龍城砦ではこのような感染症もよくあったのだろう。
トイレがやばい
インターネットに「ウェアハウス川崎のトイレがやばい」との書き込みがあった。
我々取材班は、おそるおそるトイレへと向かう。トイレは「一般的に治安がわるい場所ランキング 2位」として有名だ。(※筆者調べ、1位は足立区)
おおぉ……。
うまい言葉がでてこないが、とりあえずここは「入っちゃいけません」な場所だ。
地元のヤンキーすら溜まらない、マジヤバの空間。
しかし、ちゃんと便器はキレイ。
このあたりが、「あっレプリカなんだ」という気づきと安心感を与えてくれる。
流しもパッと見は汚いが……
キレイ。衛生面はしっかりしてそうである。本家・九龍城砦とはちがうな。
なお本家・九龍城砦のばあいは、上の階でトイレが流されると、下の階に下水がそのまま滝のように落ちてくるという事件がよくあったらしい。激レアさんでみた。
そして手をブォォォォって乾燥させるやつは……
あれっ……そんなに……キレイじゃないな……?
ここだけ演出なのか、本当に汚いのか、よくわからなかった。演出であってくれ。
ボロボロの照明。こんなのお化け屋敷でしかみたことない。
なおトイレ内では、常に「金属が軋む音」がどこかから聞こえてきていたのだが、これを撮影しているときに突然「チリリリリンッ!」という電話の音が響き渡った。
演出が細かいし、ヘタなお化け屋敷よりはるかに怖い。思わずカメラを落としそうになった。
「小心地滑(滑るので気をつけてね)」。
いまさらだが、中国語は雰囲気でテキトーに書かれているではなく、わりと正しい意味で使われている。
「請保保清活洁(清潔に保ってください)」。
見た目は完全に ”終わっている” が、たしかに清潔に保たれている。
「不許随便乱瀉(乱暴に扱わないでください)」。
その字面から「ウ◯コを撒き散らさないでください」という意味かと思ったが、わりと真面目だった。よかった。
通常のゲームスペースが気になる
さてさて。繰り返しになるが、ウェアハウス川崎はただの九龍城砦のレプリカではない。ゲームセンターなのだ。
せっかくなので、特段レトロではない、通常のゲームスペースでも遊んでいこう。
ウェアハウス川崎には、クレーンゲームからレトロゲーム、最新の音楽ゲーム、メダルゲームまで、さまざまな筐体が並ぶ。
ゲームセンターとしてはなかなかの規模である。
友人と楽しんでいる様子。(※会社の同僚)
ウェアハウス川崎に来たら、ゲームで遊ぼう。レトロ空間の撮影だけは、さすがにマナー違反だ。
フリーおしぼり。
サービスの行き届いたゲームセンターにはたまに置いてあるが、ウェアハウス川崎にもあった。こういった細やかな心遣いがありがたい。
なお、通常スペースにも所々にレトロな演出が施されている。
どうかんがえても異質すぎるのだが、ウェアハウス川崎は全体的にこんなノリなので、そのうち慣れてくる。
最新のクレーンゲーム機に囲まれる、ボロボロの風俗情報。
柱も丁寧なレトロ加工がされている。
一部のクレーンゲームには、申し訳程度のレトロ演出が施されていた。
無料コインロッカーはゴリゴリにサビ加工?されていた。
もしかすると、長年の使用によるただの経年劣化の可能性もあるが、ウェアハウス川崎ならどっちとも取れるのでオールOKだ。運営側としては便利なシステムだろう。
新しめな筐体に囲まれた、サビ加工?両替機。
若手社員ばかりの部署に入れられた、定年後の再就職リーマンかな。ぜひ長年の経験を活かして、若手をひっぱってもらいたい。
こちらも演出なのか経年劣化なのか、よくわからないゴミ箱。
キレイに整備されている。
「整備中」の文字が、終わりを実感させる
冒頭にも書いたが、ウェアハウス川崎は2019年11月17日で閉店する。
そのためか、「整備中」の文字が貼られたゲーム筐体が多かった。閉店間近のため、これらが稼働再開することは実質ないだろう。
パンチングマシーンも整備中。
長年、叩かれまくっただろうからな……。おつかれさま。
ワニワニパニックも整備中。
穴に潜んだワニが出てくることは、もうない。
比較的新しそうなゲームも整備中。しかもダブルで。
この格闘ゲーム筐体にいたっては、画面すらない。
格ゲーにのめり込みすぎて、だれかが画面を昇龍拳しちゃった?
どうでもいいけど、この「整備中」のキャラクター、ムカつく顔してるけどなんとなくかわいいな。ちくしょう。
この笑顔の裏には、閉店に対するどうしようもない悲しみと苦悩が隠れているのかもしれない。
おわりに
というわけで、今回はウェアハウス川崎をインターネット上にアーカイブしていった。
もともとはウェアハウス川崎のレポート記事を書く気はなかったのだが、あまりの完成度に絶句してしまい、思わずカメラと筆をとった次第である。
全体をとおして、テーマパーク並み、いやそれ以上のクオリティであった。運営者の九龍城砦への愛が、いたるところから伝わってくる。
閉店の理由は定かではないが、大家さんとの契約関係によるものという噂もあるらしい。
電脳九龍城、ウェアハウス川崎。
ボクは今回はじめて訪れたのだが、ここまでの完成度の施設がなくなってしまうことは、正直惜しい。常連の人にとっては、なおさらであろう。
「せめてもの記録を」と思い、記事としてアーカイブした。この記事がいつかどこかで、ウェアハウス川崎の凄さを伝えるものになれば幸いだ。
(執筆:じきるう)
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