友人が「夏休みの宿題にあった読書感想文、読むの面倒くさいからあらすじだけ読んで書いてたわ〜」と言っていて、周りの人が「あるある〜!」と盛り上がっていました。
でも大人になると、読書は自分の興味のある本を読めるし、「あらすじだけ読んで読書感想文を書く」なんて……逆にやりませんよね?
というか、「あらすじだけ読んで読書感想文を書く」って難しくないですか?! ふつうに読んで読書感想文書いたほうが楽だし早くない?!
そこで今回は、「あらすじだけ読んで読書感想文を書く」のと「ちゃんと本を読んで読書感想文を書く」の、どっちが早いか比べてみたいと思います。
明らかに夏休み前にやるべき企画をこんな時期にぶち上げておりますが、読書の秋ということでよろしくお願いします。
読書感想文を書く
今回は「読書感想文を書く」企画なので、まず夏休み最終日まで読書感想文を書かずに過ごしてしまった子供の気持ちをイメージしましょう。
8月31日。
なんとか他の宿題は終わらせたものの、めんどくさいと思って後回しにしていた読書感想文。存在に気づいたのは、夜22時。
「マジか〜……いまから本読むのダルいな……
まあ読書感想文なんか、あらすじだけ読んで書けばいけるやろ!!!」
はい、読書感想文を後回しにした小学生の気持ちになりましたね。
では、あらすじだけで読書感想文を書いてみましょう!
書きやすそうな課題図書を選ぼう
読書感想文なので、「青少年読書感想文全国コンクール」から課題図書を選ぼうと思います。
…
……
いや、わりとどれも面白そうやな?!
子どもの頃は読書感想文が苦手だった私ですが、いまこうやって課題図書をながめるとどれも読んでみたくなるものばかり。ちゃんと考えて選ばれてるんだなあ。
あらためて怠惰な小学生の気持ちになり、「読まなくても感想書きやすそうな本」という観点に絞って課題図書を見ていきます。
おっ、これは……
『かべの むこうに なにが ある?』ブリッタ・テッケントラップ
目のまえにある大きなあかいかべ。いつから? なぜ? かべのむこうの世界を知りたいと思ったねずみは……。かべとは何か考えてみよう。
これ、いけそうですね。
だって「かべとは何か考えてみよう」って書いてるから……、かべとは何かを考えればいいんでしょ?!
これは完全に勝ったも同然。一瞬で原稿用紙を埋められることでしょう。
この課題図書は「1200字以内」が条件。原稿用紙を3枚埋めればOKです。
「たくさんジュースを飲みたいという子どもっぽい気持ち」と「金銭的余裕」を兼ね備えた大人なので、カラオケで書いていきます。
というわけで、
「あらすじだけ読んで書く」vs「ちゃんと本を読んで書く」
どっちが早く書けるか試してみましょう!!!
「あらすじだけ読んで書く」VS「ちゃんと本を読んで書く」
あらすじだけ読んで書く
いまわかっている情報は、課題図書一覧に載っている「あらすじ」と、「見どころ」と書かれた部分のみ。
【見どころ】
動物たちの考えは、あるのがあたりまえ、なかにいれば安心、とさまざま。ねずみはどうするのでしょう。
かべをのりこえた先にはカラフルで美しい世界が広がっています。新しい一歩を踏み出す勇気をくれる絵本です。
あらすじだけより、一歩進んだオチに関わる情報も入ってきましたね。(ネタバレじゃないか?)
見どころに書かれているように、このストーリーのメッセージは「新しい一歩を踏み出す」ことでしょう。
つまり、このメッセージを感じ取ったことを丁寧に丁寧に丁寧に書けばなんとかなりそうです。
では、これらの情報だけで読書感想文を1200字分書いていきましょう。本すら借りません。
ちなみに余談ですが、私は真面目な子どもだったため、7月中に全部の宿題と進研ゼミを終わらせていました。
「8月31日に泣きそうになりながらぜんぶまとめてやる」経験もありません。あるあるどころか、「ないない」です。
つまり、今回がはじめての「あらすじだけ読んで感想文を書く」チャレンジ。うまく書けるかなあ……。
「かべってなんだろう?」
なべとびすこ
いつからかあった大きな赤いかべ。ねずみはそのかべのむこうの世界を知ろうとする、という物語です。このねずみはかべのむこうを知ろうとしますが、他の動物たちは「かべ」の存在に疑問を持ちません。
まずはあらすじからです。掲載されていたあらすじと見どころを語順を変えながらまとめただけです。
「ねずみはそのかべのむこうの世界を知ろうとする」をすぐに繰り返したり、途中から「かべ」とカギ括弧でくくりはじめるなど、微妙な文字数稼ぎをしてみました。
ちなみに「ですます調」にしたのも、字数を稼ぎやすいからです。
まず、このねずみの、「かべ」という劇中の世界で「あたりまえ」に存在する者に疑問を抱いた点を評価すべきでしょう。私たちはいつも、あたりまえのものについて考えることを放棄してしまいがちだからです。「かべ」について疑問を持たない動物たちは、私たちの多くの、今いる社会に疑問を持たずに生きている人たちの比喩として描かれているのだと思いました。そのなかで一歩踏み出し、「世界」を知ろうとする知的好奇心を持つことの大切さをこの物語は伝えているのだと感じました。
「多くの人間は今いる社会に疑問を持たずに生きている人たち」であるという、チコちゃんのような言いがかりを始めました。自分のなかにそんな思想があったことに驚きます。
主人公のねずみに対して「評価すべきでしょう」と書くなど、上から目線の傲慢さもにじみ出ています。
ここまでスラスラ書いてきましたが、まだ400字にも到達していません。もう少し「一歩踏み出す」の内容を具体的にしてさらに繰り返していきましょう。
「かべ」をのりこえた先にカラフルな世界があるかもしれないということに気づくこと、そこから行動することはとても難しいです。家、学校、会社——私たちはその場所や環境から大きく離れず、くり返しの毎日を送ってしまいがちです。特に日本のような島国では、他の文化を見たり聞いたりすることも難しい現状があります。同じ言葉を話す人たちと一緒にいると、自分たちの言葉を他の言葉と比べることはできませんし、同じ肌の色や同じ目の人しか見たことがなければ、それが世界の全てとなってしまいがちです。
日本の島国体質という、もはや本の内容から全く関係ない話をはじめていますが、あらすじしか読んでいないので自分の知っている話を膨らますしかないのです。
幸い、現代ではTVや新聞、インターネットで、この国以外のことを知る手段も発達しています。しかし、いくら手段が発達しても、目を向けようとしなければ「無い」のと同じです。ねずみのいる世界ではインターネットは存在しないように描かれていますが、もしかしたら、存在するのにそれを知らないキャラクターとして描かれている可能性だってあるのではないでしょうか?
劇中の世界にもしインターネットが存在していたらすぐに読んでいないことがバレる文章ですが、「絵本の世界にはインターネットなんか存在するわけない」という偏見丸出しでやらせていただいております。
この物語の「かべ」は、常識というものや、もしかしたら国境のようなものかもしれません。大切なのは、このストーリーに出てくるねずみのように、まだ見えていない世界、知らない世界を知ろうとする気持ち、今いる世界に疑問を持つ気持ちでしょう。ちょっと立ち止まって考えてみたり、頭にハテナが浮かべば調べたり、人に聞いてみたり、本を読んでみたり、とにかく「行動」することが必要です。それこそが、私たちが生きている世界をカラフルにするための第一歩です。短いお話でしたが、とても大切なことを学ぶことができました。これからは、自分の疑問を大切にし、ひとつひとつ行動を重ねていこうと思っています。
書けた。
完全に2段落目で書いたねずみへの賞賛の繰り返しになっていますが、間に日本の島国問題を挟んだことで独自性も見せられていますし、きっと大丈夫でしょう。
原稿用紙があと4行(100字)余っていますが、「1200字以内」であって「1200字程度」ではないので問題なし!!
かかった時間は「30分」。
ところどころ手が止まったりもしましたが、なんとかクリアできました。
最後まで主人公のことを「ねずみ」と呼んでいましたが、もしねずみに名前があったらヤバイな……と終始不安でした。
名前があるのに種族名で呼ぶのは、主人公のことを「人間」と呼ぶようなもので、それが許されるのはデーモン閣下くらいです。
ただ、なんとか書き終えたものの、繰り返しの表現はちょこちょこ文章を変えないといけないし、ところどころ「これ読んでないのバレるんじゃ?」という架空の担任への恐怖がこみ上げてきました。
みんなこんな不安な気持ちをかかえて、あらすじだけ読んで感想書いてたんですね……。
ちゃんと読んでから書く
つづいて真面目な学生となって、図書館で課題図書を借りてきました。
いまは夏休みじゃないのでスッと借りられましたが、もし借りられていたら返却まで2週間くらい待たないといけないので、読書感想文を後回しにするのはかなりリスキーだと思います。
借りてはじめて気づいたけど、これ絵本やった。
「小学生高学年向け」の課題図書、こんな薄いん?
こんな薄いなら普通に読むわ。
ってか、読めよ!!! 中身もほぼ絵やぞ!!
……まあ、本を借りたり買ったりとかがめんどくさくて先延ばしにする気持ちはわかるんですけどね。
ということで読みます。
一度感想文を書いているので、その予想が当たっているかどうかも非常に楽しみですね。
…
……
3分で読めた。
意外だったのはオチの部分でした。「ねずみがかべをこえた世界に行って終わり〜、めでたしめでたし」って話かと思ってたのに、その先がありました。
ねずみは元の世界に戻って、みんなにかべの向こうの世界について教えてあげるんです。
それで、みんなかべのむこうの世界に行って、最後のページは元の世界に残ろうとしていた「らいおん」がついにかべのむこうの世界に行くところで終わっていました。
あらすじだけ読んでいたとき、私はねずみの一歩踏み出す行動についてしか触れなかったけど、「ねずみだけではなく他の動物たちもみんな一歩踏み出す」というオチを知ることができました。
これは感想文でもしっかり言及すべき点でしょう。
どいうか、めちゃくちゃ良い本やな?!
友達の子どもにプレゼントするか迷いっちゃいますね。さすが課題図書なだけあるわ。
それでは感想文を書きましょう。
知ろうとすること、踏み出すこと
なべとびすこ
「かべ」に囲まれた世界のなかで、かべの向こうの世界を知ろうとするねずみの物語です。かべのむこうを知ろうとするねずみは、こわがりのねこやくまのおじいさん、おちょうしもののきづね、くたびれたらいおんに、かべのことを聞いてまわります。反応はそれぞれ異なるものの、「そとにはこわいものがある」と決めつけたり、あたりまえだから不思議に思ったこともないと言う者、むずかしいことを考えないほうがハッピーと言うもの、かべの向こうは闇だと言う者など、皆「知ろうとしない」スタンスで共通しています。見たことない世界におびえたり、知ることを放棄する動物たちの説得に負けず、ねずみは「知りたい」という自分の興味に最後まで忠実です。結果的に、ねずみはかべのむこうから来たそらいろのとりのおかげでかべの向こうのカラフルな世界を知ることができます。まわりに流されず、自分の疑問を大切にしたこと、諦めなかったことが、新しい世界へ飛び出すチャンスをつかんだと言えるでしょう。
あらすじだけで400字以上書いてしまいました。
ちょっと書きすぎた感はありますが、あらすじを書くことで、頭の中でストーリーが整理された感覚があります。「読書感想文はあらすじから書け!」と言われていた意味を、20年越しに知りました。
筆は全く止まらず、あふれだす感想は鉛筆に憑依し、オレンジジュースを飲む暇もないくらい、私は感想文を書くのに夢中になりました。
これは私たちにも言えることで、知らないことに疑問を持たず、知ろうとすることを諦めてしまえば、今より楽しいかもしれない世界を知らないまま死んでしまうでしょう。物語の後半、ねずみは元の世界に戻り、他の動物たちにも世界を見せるための行動に移ります。手に入れた素晴らしい世界をひとりで楽しむのではなく、多くの動物たちに還元しようとする姿には感銘を受けます。そこで、最初にかべの向こうは闇だと言っていたらいおんだけ、ひとり残される場面があります。らいおんは「ながいことほえたことがない」と描写されており、自ら行動をすることを長らくしていないようです。それでも最後には、かべを抜けてカラフルな世界で皆といっしょになることができています。
最後まで読んでいるので、後半のストーリー展開にも言及できます。
もちろん、現実の世界ではこんなに上手くいかないんじゃないか、という疑念はあります。一度動くのを諦めた人を動かすことは容易ではありません。それでも最後にらいおんが動いた、というラストは1つの希望であると言えるでしょう。この物語の主人公はねずみですが、最後のページはらいおんが皆といっしょになる、というところで終わっています。ねずみが「かべ」という当たり前の存在に疑問を持ち、行動するのは、まちがいなく1つの教訓であり、読者への強いメッセージでしょう。しかし、そこで終わってしまわず、他の動物たちも、ねずみの話を聞いて皆「行動」に移しています。世界を飛び出すための最初の1人になることは勇気もいりますし、決して簡単ではありません。しかし、最初の1人になれなくてもいい、ちゃんと誰かの話を聞いたときに、行動に移せる全ての者たちへの賞賛がこの物語の肝だと思います。かべをこえた世界がもし望むものとちがっても、そのときには「戻る」ことだってできるのです。
教訓である「一歩踏み出す」の部分で、最初の1人になることの大切さではなく、「他人から影響を受けても良いから一歩踏み出す」というふうに話を広げられました。
結果的に、原稿用紙をきっちり最後まで使って1200字になりました。
というか、句読点を入れたらオーバーしてしまったかもしれません……。
「最初のあらすじを削ってもう少し自分の意見を入れられたなあ……」というレベルの高い反省をしたりもしました。
かかった時間は27分。
読書した時間を足して「30分」です。
あれっ、ということはつまり……
「あらすじだけ読んで書く」VS「ちゃんと本を読んで書く」
時間的には引き分け!!!
まさかまったく同じ結果になってしまうとは……。
とはいえ、書きやすさ的にはぜったい「ちゃんと本を読んで書く」のが良いです!!
本を読めば「あらすじ」や「感動したポイント」に言及できるため、そのぶん文字数も稼げます。
「あらすじだけ読んで書く」には、本の外にある知識をどれくらい持っているかが大切になるでしょう。時事ネタに絡めたり、自分の経験を重ねたり……。
いろいろな知識があるならばあらすじだけでも読書感想文を書けるかもしれませんが、なかなか難しいです。
「あらすじだけ読んで書く」のは、楽をしているようで、じつはイバラの道なのかもしれません。
読書感想文は、ちゃんと本を読んで書こう!!!!
(執筆:なべとびすこ)