「ロボットを作って戦わせたい」
これは全人類共通の想いだ。
ただし精巧なバトルロボットを作れるのは、工学分野に精通した一部の上級国民のみ。ボクのような物理の成績が「2」のやつには、バトルロボット制作などとうてい無理な夢なのだ。
しかし。そんな無理を叶えられる場が、この世には存在してしまう。その名を『ヘボコン』という。
■ヘボコンとは?
ヘボコンとは、技術力の低い人のためのロボット相撲大会です。まともに動かない、できの悪いロボットばかりが集まり、おぼつかない足取りでなんとか戦います。(ヘボコン公式サイトより引用)
技術力の低い人ばかりが集まって、自作のロボットを戦わせ合う狂気のイベント『ヘボコン』。実は世界25ヶ国以上で開催されている、グローバルに愛されたイベントなのだ。大丈夫かなこの世界。
2019年7月21日、『ヘボコン2019』が開催され、ボクはそこに自作ロボットとともに参戦した。
この記事ではボクの(ヘボい)ロボット制作の様子と、当日の白熱した(ヘボい)戦いの様子をレポートしていく。
(筆者の過去のヘボコン参加録はこちら: ヘボコン世界大会2016 / ヘボコンDPZエキスポ大会2016 / ヘボコン2018)
ヘボいロボットの材料を集める
ロボットを作るには、何はともあれ材料が必要である。
「電気街に行けばロボットの材料くらい売ってるやろ」という安直な考えのもと、まずは電気の聖地・秋葉原にやってきた。
なお最初に申し上げておくが、この段階でロボットの設計図はおろか、構想も大してできていない。こちとら工学部出身の上級国民とはワケが違うのだ。ロボット制作は全てが手探りで進んでいく。
【ヘボコンあるある1】
最初に設計図を作らない。
ちなみに今回は、友人の†黒神†氏と一緒にロボットを作るのだが、彼は「電気街の裏通りに電気パーツがいっぱい売ってるスポットがあるらしい」という極秘情報をインターネットで入手していた。持つべきはちゃんとインターネットで調べてくれる友である。
しかしボクは工学系の知識をほとんど持ち合わせていないため(†黒神†氏はちょっとだけ分かる)、どのパーツが何の役に立つのかさっぱりであった。ロボット制作に役立つ部品があっても、それを役立てられる知識がなければ無用の長物なのだ。
結局この裏通りでは「電池を入れると光るヒモ」だけ買って退散。
その後、大手電気屋やホームセンターなどに行き、ロボットに使えそうな材料を購入していく。
今回のメイン動力はTAMIYA製のミニ四駆にした。パッケージに「EMPEROR(エンペラー:皇帝)」って書いてあるし、ぜったいつよい。
【ヘボコンあるある2】
ヘボコンでは、ミニ四駆をはじめとしたTAMIYA製ガジェットがロボットの材料に使われがち。
ヘボいロボットを作る
材料が揃ったところで、ロボットの制作に取り掛かりたいと思う。
今回、材料の買い出しを進める中でなんとなく想定したロボットは上図のような感じ。なお筆者は物理だけでなく、美術の成績も「2」のため画力は皆無である。
まずは材料を机にぶちまけてる。
なお、上の写真の中で最後まで使わないものもいくつか存在する。事前に何も想定せずに材料の買い出しを進めたため、このような自体が発生してしまった。
【ヘボコンあるある3】
材料を極端に多め、または極端に少なめに買ってしまう。
当初はボクが購入したミニ四駆を組み立てる予定だったのだが、普通にてこずってしまったため†黒神†氏に全てを任せた。
†黒神†氏は工学系高校の出身らしく、テキパキと組み立てを進める。ボクは彼の勇姿を写真に収める係に専念することとした。
ミニ四駆の電気回路に、小学校の理科の実験でよく使われるワニ口クリップコードを装着してみた。
なんとなく自作ロボット感が出てきたであろう。なお、せっかくワニ口クリップコードを使ったにもかかわらず、接着はビニールテープである。小学生も鼻で笑う力技だ。
【ヘボコンあるある4】
パーツの接着に「セロテープ」「ガムテープ」「ビニールテープ」を使いがち。ヘボコン界では ”三種の神器” とたとえられている(嘘)。
で、なんやかんやあって出来上がったのがこちら。『廃課金ロボ』である。
ソシャゲのガチャをモチーフに、現代社会の闇を風刺したロボットだ。
イルミネーションがあしらわれた贅沢仕様である。なんとなくロボットレストラン感が出た気がしなくもない。
【ヘボコンあるある5】
ロボットの設定に凝りがち。
【ヘボコンあるある6】
ロボットを光らせがち。
まず正面にドドーンと構えるのが、水着のかわいい女の子。
こちらは筆者が描いたのだが、先ほども申し上げたとおり美術の成績が「2」のため、絶妙な画力での仕上がりとなっている。
なお、胸だけはこだわって描いた模様。
胸の下には「水着ガチャ」の文字。1回500石(500円)でガチャを回せる仕様となっている。
ガチャの説明は後述する。
ロボットの右腕には「ヘボコン5周年」の文字が。
実は2019年で、ヘボコンは5周年を迎える。運営に媚を売りつつ、勝手に限定ガチャをリリースしたい所存である。
ロボットの左腕にはガチャに必要な石が装備されている。
ソシャゲのガチャ石はその多くが水色または虹色なのだが、虹色に塗るのは大変なので今回は水色を採用した。
【ヘボコンあるある7】
妥協と割り切りが大切。
後部には今回のロボットの肝、「課金スロット」が装着されている。
ここから500円玉(ガチャ1回分)を投入し、500円玉が鉄板の間を通過している間のみ電気回路が通電し、ミニ四駆のモーターが稼働。ロボットが前に進む仕組みがとられている。
なお500円で進む距離は約1〜2cmである。たまにスカって走らないこともある。
しっかり前進させるには、継続的な課金が必要となるだろう。ロボット操縦者の課金力が試される仕様といえる。
ちなみに2%の確率でSR(ヴェルヴァイス・トラッシュ:相手に火炎属性の特大ダメージを防御無視で与える)、0.2%の確率でSSR(ガイア・イルシュタイン・ガノス:相手のフィールドを大地属性に変更した上で大海属性の超大ダメージをプレイヤーに直接与える)が当たるとのこと。くわえて100連ガチャで確定PSR(水着の精霊-ゼクル・ア・フォトミア-:自分のHPを全回復した上で相手を誘惑状態にし混乱させる)となる親切仕様である。水着ガチャ、出すまで回せば怖くな……
【ヘボコンあるある8】
ロボットの設定に凝りすぎてだんだんワケが分からなくなってくる。
今回の課金システムのために、500円玉を20枚(1万円分)用意した。後日、†黒神†も同じく同額分の500円玉を用意してくれたため、あわせて40枚(2万円分)での戦いとなる。
2万円でSRガチャを引き当てられるかが、勝敗を決するだろう。
というわけで、つくったロボットを振り返ってみた。ここからは当日の様子をレポートしていこう。
ヘボいロボットを会場に持参する
2019年7月21日、ヘボコン2019当日。
会場は東京カルチャーカルチャー。渋谷駅から徒歩5分くらいのためとてもアクセスが良い。
開場直後に続々と集まり始めるヘボコン出場者たち。テーブル上にロボットを広げ、試合前の最終調整に入る。
なお、この段階で壊れているロボットも多数おり、修理のために各々テープ類を取り出している様子がうかがえる。
【ヘボコンあるある9】
会場に運ぶまでにロボットが壊れるのはデフォ。
中にはその場でロボットを作り始める猛者もいた。
「運搬過程でロボットが壊れるなら、最初から会場でロボットを作ってしまえばいい」といった逆転の発想かな?と思ったのだが決してそんなことはなく、単にロボット制作が間に合わなかっただけのようだ。
このあたりにも、ヘボコンの敷居の低さがうかがえる。
【ヘボコンあるある10】
会場でロボットを作り始める人がいる。
なおクレイジースタディからはボクたちだけでなく、こやしゅんさんも出場していた。
こやしゅんさんは前回大会で「最も技術力が低かった人賞(最ヘボ賞)」という、ヘボコンにおいて一番権威ある賞を受賞しており、今大会でも注目が集まっている。
今大会は四葉のクローバー、茶柱、おみくじ、幸せの青い鳥、幸せのパンケーキ、幸せの黄色いハンカチ、5円玉、大会当日が誕生日の免許証……といった、運の良さそうなものを集めたロボット(?)を制作しているようだ。
ロボットの羽に対応した、ガチなおみくじ箱も用意した模様。試合では実際におみくじを引き、当たりが出たらロボットが通電して走るという仕組みらしい。
わずかにコンセプトがボクたちのチームと被っている気がしなくもないが、クレイジースタディは運にステータスを全振りした集団なので仕方ないだろう。
ちなみにおみくじ箱はヤフオクで7,000円で落札したらしい。
【ヘボコンあるある11】
ロボットの機能とはあまり関係ないところで余計なお金を使いがち。
その他、周りには明らかに強そうなロボットがいたり、
ハイテクそうなロボットがいたり、
事件の香りがするロボットがいたり、
パリピがいるなどした。
ヘボいロボットを戦わせる
18時、ヘボコン2019がスタートした。
会場は超満員。こんな酔狂なイベントを観覧しに来る人がこれほどまでにいるのだ。
ヘボだからといって侮ってはいけない。
ヘボコンは32体のフルトーナメント形式で行われる。
なおヘボコンにおいて勝ち上がることは「不名誉」なことであり(勝っちゃったらヘボくないから)、2回戦以降は実質的に消化試合となる。一番面白いのは一回戦だ。
【ヘボコンあるある12】
ヘボコンは負けたやつがエラい。
ボクたちの対戦相手のロボットはこちら、チンチラのぬいぐるみロボット『ベンジャミン』である。
チンチラの啓蒙活動のために作ったとのこと。ぬいぐるみは完全お手製とのことで、相手の技術力の高さがうかがえた。
なお肝心の動力はゴムひもとなっている。
当初、動力にはモーターを使っていたらしいが、焼き切れてしまったため急遽このような形となったそうだ。
ヘボコンにおいて、制作途中でロボットが故障するのは本当にあるあるなのである。
まあそんなことより……このロボット、めちゃめちゃにデカイのだ。推定700g、高さ40cmほどある。
この時点で、ボクたちは敗北を悟った。ボクたちのロボット軽めな上、高さも15cmほどしかないのだ。
【ヘボコンあるある14】
ヘボコンは多くの場合、デカくて重いロボットが強い。
ではさっそく、実際の試合の様子を振り返っていこう。
あっ。
ベンジャミン(チンチラロボット)のゴム動力により、廃課金ロボはあっという間に距離を詰められてしまった。
頑張って課金を続けるのだが、全く前に進まない。それどころか課金の衝撃で、徐々に後退し始める始末。
そもそものモーターの動力が弱すぎたのだ。
【ヘボコンあるある15】
ロボットが試合で想定どおりに動かない。
結局、2万円分の500円玉40枚を全てつぎ込み、完全になす術がなくなった。ボクたちの課金力が足らなかった……軍資金があと10万円あれば……(そういう問題じゃない)。
なおヘボコンでは、60秒以内に勝負が決まらない場合、移動距離の長い方が判定勝ちになるというルールがある。今回はベンジャミンの方が多く動いたため、この試合はベンジャミンの勝利となった。
へ、ヘボコンは負けた方がえらいから悔しくないもんっ。
なおヘボコンには「想いを引き継ぐ」という文化があり、敗者は勝者のロボットに自身のパーツの一部を託すのが恒例となっている。
ベンジャミンには巨乳美少女を託すこととした。チンチラなのにカンガルー感がでた気がしなくもない。
【ヘボコンあるある16】
敗者は勝者にパーツの一部を託す文化がある。多くの場合、以後の試合で邪魔となる。
ヘボいロボットの試合を観戦する
ヘボコンで無事(?)一回戦敗退したので、あとは酒でも飲みながらゆるゆると観戦しよう。
その後の試合では、衣装がガチすぎる人が出てきたり、
いろいろと要素が多すぎる戦いを観たり、
ごっちゃごちゃでカオスな二回戦を観るなどした。
なお会場横ではこやしゅんさん(一回戦敗退)によるおみくじ大会が無料開催されており、大変好評であった。
結果、こやしゅんさんのロボット『チミツとクローバー』は見るも無残な姿へと変貌し、よりヘボさが増す形になった。
ヘボいロボットが表彰される
全試合終了後、本日の優勝、準優勝、審査員賞、そして「最も技術力の低い人賞(以下、最ヘボ賞)」の表彰式が始まった。
なお、ヘボコンは技術力の低い人のための大会なので、優勝と準優勝は最も不名誉な賞とされている。
一番えらいのは「最ヘボ賞」。ヘボコンにおいて強弱のヒエラルキーは逆転するのだ。
そんな最ヘボ賞であるが、なんとクレイジースタディライターのこやしゅんさんが受賞した。
なお昨年に続き二連覇なのだが、最ヘボ賞の二連覇は大会史上初とのことである。すごい。すごいけど、すごいって言っていいのかよく分からない!
ちなみに最ヘボ賞受賞者は、主催者の息子さん(小学生)作ったお手製トロフィーが貰える。こやしゅんさんは「昨年よりトロフィーのクオリティが上がっている」と感慨深い様子であった。
【ヘボコンあるある17】
最ヘボ賞受賞者は小学生が作ったトロフィーが貰える。
最ヘボ賞は会場投票で決定されるのだが、こやしゅんさんは33票を獲得し、かなりの人気を誇っていた。
こやしゅんさんは「おみくじ大会による得票があった」と謙遜していたが、それでも最ヘボ賞受賞は揺るぎない。ボクも来年のヘボコンではおみくじ大会を開こうと思う。
ヘボコン2019に出場したロボットが、ステージ上に勢揃いした様子。
こう見ると小学校の工作展覧会っぽさが満載であるが、参加者の90%はれっきとした大人である。
【ヘボコンあるある18】
ヘボコン参加者のほとんどは大人だが、みんな技術力が低い。大人だからってなんでもできると思ってたら大間違いだ。
なおステージ上に展示中に、何者かの手によってボクのロボットに少額硬貨が投入されていた。
どうやら御賽銭箱か何かと勘違いした人がいたようだ。どういうことだ。
帰り道のこやしゅんさん。
トロフィーが大きすぎてカバンに入らなかったらしく、そのまま両手で持って渋谷の街を闊歩していた。
【ヘボコンあるある19】
最ヘボ賞受賞者は、帰り道にちょっと恥ずかしい、それでいて誇らしい思いをする(でもやっぱり恥ずかしい)。
(執筆:じきるう)
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