※2022年8月5日追記:自由ポータルZにて入選しました!
気になってしまったんです。
会社のエレベーターに貼ってある「磁石」が。
こういうの、駅とか会社でよく見かけますよね。
本来は「エレベーター定期点検のお知らせ」を貼るための磁石なのですが……
誰かのいたずらなのか、ときおり磁石は図形を描くのです。
お知らせがないときは自由にうごきまわり、お知らせがあるときもたびたび混沌としたムーヴを見せてくれます。
そんな磁石がなんとなく気になってしまい……
観察をはじめて早2年。写真フォルダは330枚を超えました。
今回はいくつかおもしろかった磁石を抜粋してお届けします。
ゆたかな「表情」をみせる磁石
磁石は心をもっています。
こちらは笑顔の磁石。これを見たとき、しぜんと自分も笑ってしまいました。誰かがいたずらでやったんだろうなと。
ちなみに最初に撮ったのがこの磁石で、これをきっかけに2年間の磁石記録生活がスタートしました。笑ってしまった自分の負けです。
後日、口をへの字に曲げている磁石を見つけました。
いやなことがあったのでしょうか。磁石をとおしてSOSを出している社員がいたのかもしれません。だいじょうぶ、自分は気づいてますよ。今夜は一緒に飲み行こうか。
また後日、多眼となった磁石をみつけました。
猫の手も借りたい、磁石の目も借りたい一日だったのでしょう。目の回る忙しい日も、働いていればたまにはあります。リポDを贈呈しましょう。
こちらはほかの掲示物を自身に吸収する磁石です。
磁石だけにとどまらない、あらたなクリエイティブの幕開けですね。こういったブレイクスルーがブルーオーシャンをパイオニアするのです。社長がそんな感じのことを言ってました。
「図形」をえがく磁石
磁石でできる遊びって、なんだと思いますか?
この観察を始めて気づいたのですが、テトリスが行われていることがけっこうあるんです。
エレベーターの移動中にちょっとミニゲーム……そのくらいの遊び心は、業務中でもいいですよね? ダメ?
こんな感じのT字型のブロックもよく描かれます。
凸部分がとび出ちゃってるのはご愛嬌。
お次はL字ブロック。角にひっかけてますね。磁石を角に沿わせたくなる気持ち、わかります。たぶんこの人は電車でもはしっこの席にすわるタイプです。
もちろん、テトリス以外の図形が描かれることもあります。
こちらはおそらく東京タワー。先っぽの電波アンテナまで表現されてます。これを見つけたとき、思わず「おおっ〜」と感嘆の声がもれました。ミニマルな要素でも理解できるようにデザインされています。
こちらは一輪の青い花か、または手持ち扇風機です。
どうしても数個の磁石しかないので、絵が抽象的になっちゃうんですよね。そのぶん、見る人のとらえかたは無限大です。
抽象的といえば、磁石は現代アートのような絵を描くこともよくあります。
こちらは抽象画『狼と三本の矢』
『落つる雫』
『追放』
『忍び寄る魔の手』
※会社の同僚に邪魔されたときの写真です。筆者は知らぬ間にうごく磁石を観察しているので、「目の前でうごかすのはやめてください……」と懇願しました。同僚は「あ、うん……え、ごめん?」と困った反応でした。こちらこそなんかごめん。
「オフィスラブの合図」となる磁石
繰り返しになりますが、ここは会社のオフィスのエレベーターです。
コロちゃんのせいで出社人数は減っていますが、「オフィスのほうが集中できる」などの理由で出社する人もそれなりにいます。じつは自分もその一人。
そんなわけでコロちゃん以後は磁石もあまり活発ではなく、3〜10日に1度、ちょっとうごく程度です。(それゆえに2年間もの観察が必要でした)
なので、1日に何度もうごくことは滅多にないのですが……
お昼休みの休憩で外に出るとき……あっ!!!
磁石がうごいてる!!!
退社するとき。磁石はもとの位置に戻っていました。
こんな短期間でうごきがあるなんて。
もしかしたら、二人だけに分かる愛のメッセージなのかもしれません。「OKだったら磁石をシンメトリーに戻して。私と気持ちが同じになるように……」みたいな。
会社でそんなオフィスラブが起こってるなんて。人事に報告しなければ。
「本来の役割」をまっとうする磁石
つい忘れがちですが、そもそも磁石は月1回おこなわれる「エレベーター定期点検のお知らせ」を貼るためのものです。
もちろん、お知らせがあるときは本来の役割をまっとうします。
年に2回ほど「消防設備点検のお知らせ(写真右)」もおこなわれるため、こんなときは磁石も大忙し。
青磁石、透明磁石、フル稼働で対応します。
定期点検後にはごくまれに「お知らせの抜けがら」が見られます。
これを見つけたときかなりテンションが上がってしまい、うしろに宅配の兄ちゃんがいたのですが、かまわずカメラに納めました。感動の記録を恥じることはありません。不審がられはしますが。
ときおりサボっている磁石を見かけることもあります。
でも誰かがサボってもまわる組織って、じつは良い組織なのかもしれません。
そんなはたらく磁石たちに、某日、激震が走ります───。
「存在意義」を奪われる磁石
えっ……!
磁石なしで貼られてる!?
なんということでしょう、エレベーター定期点検のお知らせが、セロハンテープによって貼られてしまいました。
磁石のキャリアを狙う、刺客の登場です。
これほどまでに屈辱的な仕打ちはあるでしょうか。
しかしセロハンテープのほうがスマートに貼れますし、磁石のようにサボることもありません。
セロハンテープのうえから磁石も重なってみたようですが、もはや何の意味もありません。
糠に釘とはこのことか。サボり気味の磁石がキャリアを奪還するのは、かんたんではなさそうです。
磁石はすねました。
窓際ならぬ、ボタン際送り。おしまいです。
「統計データ」でみる磁石のうごき
ところで磁石のうごきや役割が気になったので、統計をとってみました。(写真330枚分)
こちらは磁石(青)の個数グラフ。基本的には4つほどエレベーター内に置かれているようです。
いっぽうの磁石(透明)の個数は、2個を中心にしつつもバラツキがあります。
えっ、ていうかそもそもの話ですけど、誰かが磁石を置いてったり、持ち帰ったりしてるの……???
統計をとったせいで、よけいに謎が深まりました。
「エレベーター定期点検のお知らせ」の有無ですが、まさかの50%以上で「なし」という結果になりました。
7日間あれば4日間は磁石がはたらいていない計算になります。週休4日制です。時代を先駆けていますね。弊社にも導入してほしい。
磁石の配置分類グラフ。列型やテトリス型などさまざまな図形を描いているものの、半数弱がシンメトリー(左右対称)となっていることがわかりました。
崩れた形よりも、ととのった形のほうが好まれるようです。弊社には几帳面なひとが多いのかな。
「反抗期」をむかえるカオス磁石
閑話休題。セロハンテープに立場を危ぶまれてからは、磁石はレジスタンスな側面をみせるようになりました。反抗期、いや労働組合運動です。
こちらは、どうしてこうなったってくらい歪みに歪みまくったお知らせ。仕事の雑さで敵意をむきだしにしています。
豪快に職務放棄する磁石も。
6つの磁石があるのに、仕事してるのは2つだけ。それにしても、なぜそんな遠くに……?
エレベーターのすみっこに隠れることもあります。
天井と壁の間という、ポケットモンスターアルセウスのアンノーン並みに見つからない位置です。
三面に分散される磁石。
社内の派閥争いがうかがえます。大丈夫かなこの会社。
「お知らせ掲示派」と「仕事放棄派」による派閥争い。
お互いバチバチしすぎて、対極の位置に席をおいているようです。
磁石は「ひとの営み」をみせる
2年間観察しつづけてわかったのは、磁石はひとの営みをみせるということでした。
だれかの都合で配置された磁石は、ときに仕事をまっとうし、ときにサボり、自由なクリエイティブを生み、そして新勢力登場によりお役御免となる。
これって、はたらく人すべてに当てはまるのではないでしょうか。お知らせを貼る磁石は、社会の縮図なのです。……いや、会社の縮図か?
また今回観察しつづけてみて、筆者に対する同僚からの視線も変わってきたように思われます。
最初は「エレベーターの壁を撮ってるへんなやつ」という目で見られていましたが、すこしずつ「磁石を撮りつづけてるヤバいやつ」に進化していきました。
最近では「あ、磁石ありますよ、撮らないんですか?」と煽られることもしばしば。うるさい、撮るよ。
今後も大きな変化があったときには、こちらの記事で報告していこうと思います。
それでは。
(執筆:じきるう)
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