爆笑が、爆発する。
いつからだろう。
ただ面白いだけでは勝てなくなった。
8540組もの漫才師が、
人生をかけてこの日のために仕上げてくる。
その険しい戦いの先に残る10組が、
面白くないはずがない。(M-1グランプリ2023より引用)
今年も最高に熱い冬が帰ってくる。
2022年度はウエストランドが、コンプライアンスの厳しいテレビにて悪口を言いまくる毒舌漫才をもって優勝をかっさらった。機関銃のごとく四方八方に噛みつく井口さんの姿は、芸人キャッチコピーの通り、まさに「小市民怒涛の叫び」だった。
M-1ではこれまでの18回全てに、芸人の魅力・特徴を端的に伝えるキャッチコピーがついている。
歴代ファイナリストのキャッチコピーを洗い出して分析することで、よりM-1を楽しめるんじゃないだろうか?
さぁ、調べよう。頭の中でM-1グランプリの出囃子「Because We Can」が流れ始めた。
M-1歴代芸人キャッチコピー152組を分類してみる
まずは開催年順に、M-1グランプリ ファイナリストのコンビ名・キャッチフレーズを整理してみた。
洗い出した歴代ファイナリスト152組の芸人キャッチコピーを、独断と偏見で以下の8パターンに分類した。
すべて読まなくてもこの記事は問題なく楽しめるが、もし時間があったらこれらのパターンを頭の片隅におきつつ、自分の好きな芸人のキャッチコピーを見てほしい。(分かる〜!!と思ってもらえたら、とてもうれしい)
複数のパターンに該当するキャッチコピーも多い。
たとえば冒頭でも挙げた2022年度王者・ウエストランドのキャッチコピーは、2つのパターンに該当する。
ちなみにどのパターンのキャッチコピーが多いかを調べると、以下のような結果になった。
これまでのM-1のキャッチコピーは「芸人パーソナル」「漫才スタイル」「リベンジ」の順に多いようだ。
なお筆者は過去にキングオブコントのキャッチコピーも調べたことがあるが、こちらも第3位までは同様の順位だった。
大会問わず、芸人のパーソナルな特徴や、芸風の特徴からキャッチコピーは作られているようだ。
さぁ、まだまだ色んな角度からキャッチコピーを見ていこう。
M-1歴代芸人キャッチコピーを品詞ごとに分解し、頻出ワードを探ってみる
次はキャッチコピーを品詞ごとに分解し、その傾向を探っていく。
今回は「KH Coder」というツールを使って分析してみた。
頻出単語を品詞ごとに分けて集計した結果がこちらだ。
当たり前だが、頻出単語第1位は「漫才」。ではその前後にはどんな単語がくっついているのかを調べてみよう。
キャッチコピー内の単語と単語が、ともに出現しやすい関係を表す“共起ネットワーク”という図も見てみよう。
この図を見て、みなさんもそれぞれ思うことがあるだろうが、僕は以下のような感想を抱いた。
また注目したいのが、「フリースタイル」と「東京」の関連性の強さ。
M-1審査員を務めるナイツの塙さんが自著『言い訳』のなかで、「サッカーで例えるなら大阪はブラジル」と記している。日常会話がそのまま漫才のテンポとなる関西勢に立ち向かうには、東京はフリースタイルを極めるしかないのだろう(ジャルジャルのように関西×フリースタイルの隙のないコンビもいるが...)。
ここで思い出したのが、以前調べたキングオブコントの共起ネットワーク。こちらはM-1とはやや異なり、「なにわ(浪速・浪花)」と「逆襲」や「エース」などの言葉の関係性が強かった。
漫才は関西における文化が強いため、東京が「フリースタイル」などの新境地を攻めている。
一方で、コントは「東京03」や「シソンヌ」など関東勢のイメージが強いため、それに立ち向かう関西勢が「なにわ」や「エース」などの力強さを表現しているのかもしれない。
M-1グランプリは「2010年以前」と「2015年以後」で様変わりした?
ご存知の方も多いかもしれないが、実はM-1グランプリは2010年で一度幕を閉じ、5年の時を経て2015年より復活している。
そこで2010年までを復活前、2015年以後を復活後としてデータを分けたとき、どのような違いがあるかも調べてみた。その結果が以下の通り。
2010年以前は「悲願」「奇跡」「突破」など、この大会に懸ける強い思いが表れている。
そもそもM-1グランプリは、島田紳助さんが出場資格を“芸歴10年目以内”としたコンペティションだ。この大会の決勝に10年間残れないなら、スッパリ芸人を諦めなさいという意味が含まれている。
恐らく、そういった思いが芸人側にも伝わり、このような言葉が頻出したのだろう。
一方、2015年以降は「変幻」「個性」「フリー」といった、自由に自分たちの好きな漫才を表現する様子が頻出ワードから出ているように思える。
現在は出場資格も“芸歴15年以内”と緩和されており、以前よりも間口が広くなっていることからも、大会の趣旨やスタイルが徐々に変化してきていることがうかがえるだろう。
さまざまな分析手法を使ってキャッチコピーを見てきたが、現段階で分かっていることは以下の3つ。
ここからさらに傾向を探っていこう。
クセ強漫才師のキャッチコピーは同様にクセが強い
2020年度、マヂカルラブリーの優勝で巻き起こった「漫才か漫才じゃないか論争」。さまざまな意見はあれど、今回議論したいのはそこではない。
漫才の新しい形に挑戦しているコンビのキャッチコピーに、何らかの傾向はあるのか。今回は僕の独断と偏見で、マヂカルラブリーのような“クセが強い漫才師”をピックアップし、その傾向を探ってみた。
- ジャルジャル
2010年 スーパールーキー
2015年 フリースタイルが止まらない!
2017年 帰ってきたフリースタイル
2018年 フリースタイル再び- スリムクラブ
2010年 無印(ノーマーク)島人(しまんちゅ)
2016年 一撃必殺- トムブラウン
2018年 無秩序- マヂカルラブリー
2017年 摩訶不思議
2020年 我流大暴れ- ランジャタイ
2021年 奇天烈の極み- ヨネダ2000
2022年 なかよし奇想天外
「奇想天外」「奇天烈の極み」「無秩序」「摩訶不思議」...クセ強漫才に負けないクセ強キャッチコピーに、コピーライターの意図を感じるのは僕だけだろうか。
特に好きなのはトム・ブラウンの「無秩序」。芸人としては最高の褒め言葉な気がしませんか?
2002年・2015年は異色の長文キャッチコピー
長いM-1グランプリの中で、2002年と2015年だけはキャッチコピーの毛色が異なる。
百聞は一見に如かず。まずは2年間のキャッチコピーを見ていただきたい。
【2002年】
- ますだおかだ
打倒吉本を合言葉に今年も決勝へ- フットボールアワー
漫才新人賞を総なめにしてきた若手実力派- 笑い飯
今年もM-1予選にノーシードの新星が現れた- おぎやはぎ
前回東京からはただ1組の決勝進出- ハリガネロック
前回準優勝リベンジだけに燃えたこの1年- テツandトモ
現代版音楽漫才がM-1に新風を吹き込む- ダイノジ
大分県出身の重量級コンビが涙の初出場- アメリカザリガニ
昨年は高熱をおして堂々の第3位【2015年】
- 銀シャリ
昭和をまとった新世代再び!- ジャルジャル
フリースタイルが止まらない!- タイムマシーン3号
器用なおデブさんは好きですか?- スーパーマラドーナ
震える子羊ボケまくる!- 和牛
心にさされ!非情な愛のボケ- メイプル超合金
誰も知らない超ダークホース- 馬鹿よ貴方は
静かなる毒舌漫才- ハライチ
澤部、今日も騒ぐってよ
長文かつ、こちらへの語り口調なキャッチコピーが妙に多いのだ。
テツandトモの『なんでだろう』のネタが現代版音楽漫才と評されていること、アメリカザリガニのキャッチコピーが個人的な事情過ぎることがたまらなく面白い。
また、ハライチのキャッチコピーが映画『桐島、部活やめるってよ』っぽいこと、そして今や昼の顔ともなった岩井が“じゃない方”として扱われていたことなどが伺い知れて、時代を感じてしまう。
故郷に錦を飾れ!キャッチコピーで一番多い地域は「東京」
前段で、「漫才は関西のイメージが強いから、東京やフリースタイルなど関東勢の自由な漫才イメージが強いのではないか?」と考えを示したが、ふるさとのキャッチコピーが多い地域も東京であった。
【東京】
- 2001年 おぎやはぎ
東京の星- 2002年 おぎやはぎ
前回東京からはただ1組の決勝進出- 2008年 ナイツ
浅草の星- 2009年 ナイツ
浅草の星- 2010年 ナイツ
浅草の星- 2019年 オズワルド
新・東京スタイル- 2020年 オズワルド
NEO東京スタイル- 2021年 オズワルド
シン・東京スタイル【大阪】
- 2019年 ミルクボーイ
ナニワスパイラル- 2021年 もも
なにわNEWフェイス【栃木】
- 2008年 U字工事
I❤とちぎ【埼玉】
- 2009年 ハライチ
原市生まれM-1育ち【大分】
- 2002年 ダイノジ
大分県出身の重量級コンビが涙の初出場【熊本】
- 2019年 からし蓮根
火の国ストロング【沖縄】
- 2010年 スリムクラブ
無印(ノーマーク)島人(しまんちゅ)
なお「東京」のキャッチコピーを含む芸人で東京出身なのは、恐らくおぎやはぎのみ。(ナイツの2人とオズワルト伊藤は千葉出身、オズワルド畠中は北海道出身)
東京ディズニーランドも千葉県にありますし、千葉出身はもはや東京ってことですかね?
最多出場の王者・笑い飯のキャッチコピーがまさに孤高
2010年までのM-1は、笑い飯の存在抜きには語れないだろう。未だに破られない最多出場記録や、2010年最後の年に王者となったこと…まさに伝説だ。
そんな笑い飯のキャッチコピー変遷を辿ると、彼らがM-1とともに歩んでいった軌跡を見ることができる。
笑い飯
2002年 今年もM-1予選にノーシードの新星が現れた
2003年 ∞(インフィニティ)
2004年 予測不能
2005年 予測不能のWボケ
2006年 予測不能のWボケ
2007年 予測不能のWボケ
2008年 孤高のWボケ
2009年 孤高のWボケ
2010年 孤高のWボケ
ノーマークだった2002年から2005年には、笑い飯が作った「Wボケ」という漫才システムがキャッチコピーになり、最後の3年間は「孤高」の存在として評される。
このキャッチコピーからは笑い飯がWボケを信じ続け、最後には王者を勝ち取る…そんなドラマを見ることができるのだ。
M-1歴代芸人キャッチコピーBEST5/2023年度予想
最後に、歴代キャッチコピーのなかで特に秀逸キャッチコピー5選と、2023年度のM-1ファイナリストのキャッチコピー予想をお伝えしたい。
2023年度はファイナリスト9組中5組が初出場であること、敗者復活戦の審査方法が大きく変わることなど、新しいM-1の幕開けをひしひしと感じる。
この歴史が変わる瞬間をぜひみんなで楽しみましょう。では。
(執筆:電気とデニム)
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