介護×デザインって何!?『おいおい老い展』に行ってきた

 

8年ほど、介護士をしていた。

いろいろあって仕事からは離れてしまったのだけど、いまだに介護業界のことは気になるし、きらいじゃない。

 

そんななか、友人から「変わった介護の展示会がある」との情報が入った。それが今回行ってきた『おいおい老い展』だ。

おいおい、タイトルからしてふざけているじゃないか。いったいどんなものなんだ。

 

 

『おいおい老い展』ってなんだ?

▲会場はアーツ千代田3331。案内のデザインや色遣いにインパクトがありすぎる

この『おいおい老い展』は、介護・福祉の現場に対する「きつい」「汚い」「危険」「給料が安い」といったイメージを払拭し、介護・福祉業界の魅力を発信、住民参加を促すための試みなのだという。

2018年8月から厚生労働省補助事業として行われている「これからの介護・福祉の仕事を考えるデザインスクール」の発表の場にもなっているそうだ。

 

▲公式パンフレットより

デザインスクールには全国から約500名のひとが参加したとのこと。

500人という規模感がよくわからなかったので調べてみたところ、いきなりステーキやペッパーランチを運営する「株式会社ペッパーフードサービス」の従業員数が約500名でおなじくらいだということがわかった。よけいに規模感がわからなくなってしまった。

『おいおい老い展』では、この約500名・67組によるデザインスクール生の発表と、その他10組のアーティストによる作品展示が行われた。

 

さっそく展示を見てみよう

 

入場して真っ先に目についたのは「高齢者の写真」である。

▲受付を過ぎると、西本喜美子さんの自撮り写真から展示が始まる

ユニークな自撮りで評判の、西本喜美子さんによるアート作品。写真を始めたのは72歳からで、90歳になったいまもInstagramで精力的に写真を投稿されている。

 

▲展示されていた写真から。この「おいおい老い展」は写真撮影が自由である

▲不謹慎なんだけど笑ってしまう。自分の年齢をネタにおもしろさを追求するのが西本さんのスタイル

『おいおい老い展』のキャッチコピーは以下のとおり。

「長く生きることはいつだって、ユーモアがあふれている だから、人生は傑作だ」

なるほど、たしかに西本さんの作品からは年を重ねたことによるおもしろさが伝わってくる。

わたしたちはみんな歳を取る。「老いる」ってあまりいい響きではないと思っていたけど、そんなネガティブに考えなくてもいいのかもしれない。

 

デザインスクールのブースはどんなのがあるんだろう

▲デザインスクールのブース

西本さんの展示を抜けると、デザインスクールのブースがある。

各ブースには扉がついていて、開くとあたらしい世界が開けるしくみだ。

 

回ってみたなかから、いくつかご紹介させていただきたい。

 

1. 雑な暮らし展

▲雑な暮らし展

▲「展示の『雑』はすべて実在します。」という注釈があった

たとえば、お母さんの盛り付けやおじいちゃんの収納。そんな「雑」を集めたブースがこちら。

「雑だなぁ」と思うことはあるかもしれないけど、雑ってそんなにネガティブで無用なものなの? という問いかけ。

自分はするかな? 相手がしてたらどう思うかな? なんでこうしたのかな?

そんな雑感をたのしもうという展示だった。

 

2. うんちを出すゲーム

▲うんちを出すゲーム

▲小学生を対象にした、排泄介助の知識を学べるゲーム

「うんち」って、小学生が好きなテーマのひとつ。それを活かして介護を身近に感じてもらおうというゲームの企画です。

個人的には、ブースの扉がトイレのものだったところが気に入りました。うーん、徹底している(うまいこと言ったつもり)。

 

3. まったく役に立たない介護マニュアル

▲まったく役に立たない介護マニュアル

▲つらさをおもしろさに変換し、明るく介護するための工夫をまとめたもの

▲ポケ◯ンGOの孵化ビジネス開始

もしかしたら役立つ、もしかしたらまったく役に立たない。そんな介護マニュアルです。

上の写真のほかにも「過剰に痛がるお年寄りはネイマールの演技指導コーチに推薦」という解決策が提示されていて笑いました。

 

こういう、ちょっとふざけた企画。「お年寄りをばかにするな!」と怒られるかもしれませんが、わたし個人としてはすごく好きです。

真面目にかんがえすぎると思い詰めてしまう。わたしも介護士のころは、半分くらいふざけていたような気がします。

気負わない。おもしろがって、笑顔ではたらく。そうやって生きていると、介護がいやにならないんじゃないかなぁ、なんて。

 

4. 飲み物とマンガでひと息

▲飲みものとマンガでひと息

▲3コママンガが並べられている

3コママンガでほっこり。社会に介護のことを知ってもらう取り組みです。

日常のことなんだけど、こういうことってネタにしづらい。「失礼ではないか」という空気もあります。

でも、これもひとつのリアルなかたち。

ひとつ前の「まったく役に立たない介護マニュアル」と合わせて、こういうものが許容される社会であるといいな、と個人的には思います。

 

5. 夜勤明け食堂

▲夜勤明け食堂

▲夜勤明けは空腹。ガッツリ食べたいという需要に応えた食堂の提案

介護士や医務の側に立った企画です。リサーチをしたところ、「夜勤明けはお腹が空く。ガッツリ食べたい。」という意見が多く出たそう。

でも、朝10時からガッツリ食べられるお店はすくない。じゃあ、地域の高齢者にそういうお店を作ってもらえないか。そんな提案です。

 

夜勤明け、実はめっちゃお腹空くんですよね。もしかしたら意外かもしれませんが、夜勤従事者だったからこその「わかる!」がこの企画にはありました。

わたしは当時、よくラーメン二郎を食べにバイクを走らせていました。

 

いったいどんなひとたちが参加をしているの? 話を聞いてみました

 

さて、各ブースを覗いていると、気になる展示がひとつありました。

▲cocobaco

収納のようですが、なんかちょっと気になる形の「cocobaco(ココバコ)」。

これを作ったグループの方々に、今回はお話をお聞きしてみました。

 

▲左から、メンバーの髙橋さん、井上さん、松本さんの3名が在廊されていた。

 

はじめまして。せっかくなのでいろいろお聞かせください。よろしくお願いします。

 

よろしくお願いします。

 

さっそくなんですが、みなさんはどういうお仕事のかたなんですか?

 

わたしは理学療法士です。わかりやすく言うと、リハビリをする人ですね。
今回は、普段の仕事ではあまりできない「0から1を作るプロダクト」をやってみたいと思って参加しました。

 

私は在宅診療……すなわち医療関連の会社に勤めています。
参加動機は正直、会社から「勉強してこい」と言われたからですね(笑)。

 

わたしはデザイナーです。
介護業界のことはあまり知らないのですが、介護に疲れている多くの人を支えるために、なにかできることはないかと思い参加しました。

 

ほかにも会社員や特養の相談員さん、施設の事務のかたなど、計6名のメンバーで活動をしています。
全員「これからの介護・福祉の仕事を考えるデザインスクール」の受講生で、わたしたちもそこでできたグループのうちのひとつです。

 

参加動機もけっこうちがうんですね!
井上さんは会社からの指示で参加されているとのことですが、ぶっちゃけ「面倒だなー」とか思いませんでした?

 

モチベーションの差はまぁ、若干はありますね(笑)。
でも、やっぱりみんなでひとつのものを作るのは楽しいですよ。かたちになってくるとおもしろくて。

 

井上さんはちょっと、わたしたちの巻き添えになった感もありますね(笑)。

 

cocobacoってなに?

 

この「cocobaco(ココバコ)」っていったい何なんですか?
おしゃれな棚だなぁ、とは思ったんですが。

 

これはあたらしいかたちの床頭台(しょうとうだい)です。

 

▲よく施設のベッドサイドに置いてあるこれを「床頭台」と言います

 

よく施設のベッドサイドに置いてある台を「床頭台」と言います。
床頭台って単語、Wikipediaに載ってないんですよね(笑)。今回は見本のために、実物を持ってきました。

 

そうなんですか!? わたしは介護施設で働いてたからわかるけど……たしかに一般的な知名度ってないのかも。
でも、説明のためにわざわざ実物を持ってくるのすごい!

 

そんな床頭台なのですが、私たちは「床頭台ってみんな一緒だし、なんか使いづらいな」って思ったんです。

 

えっ!? 床頭台、使いづらいですか?

 

たとえば上に物がいっぱい乗ってたり、また上段のスライドはほぼ全開で下の引き出しが開けづらい、なんてことはありませんか?

 

▲施設の床頭台でありがちな光景。スライドをしまわないと引き出しが開かない

 

あっ……確かに! わたしが働いているときもよく片付けました。
でも「そういうもんだ」と無意識に納得してたかも……!

 

松本さんは介護業界の人じゃないんですが、プロジェクトが始まってからおばあちゃんが老人ホームに入所されて……。その時、松本さんが床頭台を「みんな一緒」って言ったのが鍵になりました。
私たちのチームは「最後まで自分らしく生きる」をテーマに掲げているのですが、その「みんな一緒」に一石を投じて、自分らしく生きるためのプロダクトを作れたらなと思ったんです。

 

松本さんのようなフレッシュな視点がいちばん大切なんですよ。わたしたち介護の仕事をしている人間には、どうしても先入観があるので。

 

「最後まで自分らしく生きる」ためのプロダクト

 

なるほど、「画一化された床頭台を変えたい!」というのはわかりました。
具体的には、いままでのものとどうちがうんですか?

 

たとえばcocobacoの天板。これ、透明なアクリル製になってるんですよ。
ご家族の写真を入れて飾ることもできるし、碁盤の目やオセロの盤を印刷した紙を入れれば即席のゲーム台にもなります。

 

▲アクリル板の天板はスライド可能。

 

ほんとだ! 透明の天板がスライドするようになってる!!

 

あと、サイドボードは取り外して、付け替えることもできます。

 

▲白いサイドボードはホワイトボードになっていて、文字を書いたり消したりすることが可能

 

有孔ボードで物を飾ったり、ホワイトボードにして伝言を書けるようにしたらどうだろう? って思って。

 

すごい、なんか取っ手がついてるとおもったら着せ替えができるなんて……!
反対側のテーブルは車イスに対応しているんですか?

 

▲下段の箱は椅子兼収納ボックスになっている。

 

はい、車イスが入って使いやすい高さになっています。
テーブルは折りたためるので、スペースによって使いやすいかたちにすることができます。

 

下段の椅子も、ちょっと低く見えるかもしれませんが、テーブルの高さに合わせてあります。
利用者さんに来客がきたときに使うことを想定しています。

 

すごい! あと、このテーブルはずいぶん大きいですね?

 

床頭台のスライドって小さくて、食事の配膳トレイがはみ出してしまうんです。
ぶつかって、倒しちゃって、職員さんが床を掃除して……ってけっこう大変ですから。

 

配膳トレイが余裕を持って載るような大きさにしました。

 

利用者さんが食事をこぼしちゃって床掃除……介護士時代に月イチくらいでやってたやつだ……!!

 

あと、これは床頭台なので、キャスターがついていて本体を動かせるようになっているんです。
家で使っていただいて、施設に入ったときには持ち込んでいただけたらとも思っています。

 

私たちは「最後まで自分らしく」をテーマに掲げているので、自分らしい環境を施設にも持ち込めたらなと。
施設の職員さんも、利用者さんやそのご家族がカスタマイズしたcocobacoを見たら「こういうものがお好きなかたなんだな」って一目でわかると思いますし。

 

東京に住んでいても、金銭的な事情で北関東の施設に入所されるかたがけっこういるんです。
でもcocobacoを持って行けば、少しでも自分の生活が繋がっていることが実感できるじゃないかなって。

 

展示5日前に……

 

なるほど!! よく考えられているし、すごい機能を持った床頭台なのはわかりました!
井上さんが土日を返上して、のこぎり片手にがんばって作ったんでしょうか?

 

さすがに無理です(笑)。アイデアをまとめて、家具デザイナーさんに作ってもらいました。
デザインスクールと、この「おいおい老い展」を主催しているstudio-Lさんのネットワークがありますから。

 

家具デザイナーさんに!
いやらしい話ですが、でもそうなるとだいぶお金もかかりますよね? みなさんがお金を出し合って作ってもらったんですか?

 

いえ、デザインスクールが厚生労働省の補助事業になってるので、そこから予算は出るんです。
さすがに持ち出しはちょっと厳しいので……(笑)。

 

おお、そうなんですね!
数百万円を自由に使えたらたのしそうです。

 

さすがにそんな額は動きません。

 

失礼しました。ところで、これは販売する予定はあるんですか?
これだけいいものができたのなら、たくさん売れてウハウハ……なんて未来も想像できるんですが。

 

元々「売ろう」「儲けよう」でなく、ライフスタイルの提案なので……。
世間にインパクトを出したかったんですよ。なので販売の予定はまだありません。

 

今後評判になれば、クラウドファンディングなんかも検討するかもしれませんが、今のところは……。
でも、今日は来場者のかたに「欲しい」って意見をたくさんいただけたので、よかったです。

 

12月の中間展示で試作品を出したときは、ぜんぜん注目されなかったので……。「ただの箱じゃん」みたいな感じになっちゃって。
そこから必死で考えてきたので、今日はいろんな人に評価してもらえて嬉しいですね。

 

ちなみに最後までがんばって作ったので、完成したのは展示5日前です。

 

がんばりが過ぎる。

 

いずれcocobacoが、営利目的とかではなく、いろいろな社会実験やワークショップのツールなど、人と人をつなげるアイテムになっていけばいいなあ……とは考えていますね。

 

「いいねそれ!」から始まっていく

 

期間が限られたなかで、色々大変なこともあったとおもいます。
制作の思い出と、『おいおい老い展』についてお聞かせいただけますか。

 

「最後まで自分らしく生きる」というテーマが最初からあったので、まとまりがあったチームでしたね。
みんな一生懸命で、力のあるひとたちが揃っていて楽しかったです。

 

特にたいへんだったのがここ数日ですね。限られた時間の中でひとつのプロダクトを作るとなると、開催ギリギリになってしまうのは仕方なかったですが……(笑)。
でも言葉やイメージでなく、作ったモノをしっかり伝えたいから最後まで粘りました。今でもどうすれば伝わるかを試行錯誤しながら動いています。

 

知らないひとが「せーの」で集まるから、「そんなのできるわけないじゃん」がなかったんですよ。
松本さんみたいな業界の外のかたもいるので、「いいねそれ!」からぜんぶ始まっていく。

 

大変だけど、すごくたのしかったです!
ふだんやらないことをやるので。高校のころの文化祭を思い出しました。

 

「おいおい老い展」はよその展示もおもしろくて、見ごたえがありましたね。

 

これをきっかけに、介護を少しでも身近に感じてもらえたらいいなと思います。

 

介護の世界は、おもしろくしようとするとちょっと異端児扱いされてしまうところもあります。
でも、やってる自分がたのしければ、仕事もたのしい。そういう思いがもっと届けばうれしいですね。

 

ありがとうございました!

 

おわりに

 

最後の髙橋さんの「やってる自分がたのしければ、仕事もたのしい」という言葉が胸に残りました。

だれにでもできるけど、だれにでもはできない仕事。それが介護・福祉という業界だと思っています。

だれにでも訪れる「老い」。だからこそ、いまのうちにちょっとその業界の扉を開いてみるのもいいんじゃないかな。

そんなことを思った一日でした。

 

▲『おいおい老い展』は3月25日までアーツ千代田3331 1Fメインギャラリーで開催。入場料は無料

▲会場には「夏は来ぬ」を歌うpepperもいた

 

(おわり)

取材協力:ココバコプロジェクト