東京・上野駅から東に1kmほどのところにある、食器店『ニイミ』の話をしよう。
まずは店の外観をご覧頂きたい。
このインパクトたるや。
屋上にりりしくそびえるのは「ジャンボコック像」と呼ばれる、お店のシンボルだ。テレビやWebでもたびたび紹介されている。
仕事で近くに寄ったときに目撃した私は、そのリアルな造形に打ち震えた。
屋上から顔を出してるということは、このように、ビルの中に身体が隠れているはずである。
ところで、人間には「ひざのお皿」と呼ばれる骨がある。
と、いうことは……
コックさんのひざの位置には「”ひざのお皿の骨”っぽいお皿」があるのでは?
ひざのお皿を買いに行こう!
ひざの位置を正確に求める
そもそも、このコックさんは何者なのか?
ニイミ洋食器店の公式Facebookアカウントによると、二代目社長の新實善一さんがモデルだという。本当は、彼の体格を元にひざの位置を特定したいところだが、残念ながら全身の写真は見当たらない。
しかし、像が造られた昭和55年当時、日本人男性の平均身長は169.7cmであった(参考:学校保健統計調査)。それなら、身長が近い私の体格を元にしてもいいだろう。
そこで私は、Google Earthからビルの高さを取得したり、自分の身体を測ったりして、このビルにおける「ひざの位置」を正確に計算した。
その結果、二階の床から1m27cm~1m82cmの空間が、ちょうどひざの高さにあたると判明。
まずは売り場を特定できたが、「ひざのお皿」を買うにはこれだけでは足りない。できるだけ、ひざの骨に形が近いお皿を選びたいところだ。
じゃあ、ひざの骨って、どんな形?
模型を調べる
次なる疑問を解決するため、Amazonでひざの骨格模型を購入した。
箱には「医理学教材」と書かれていた。意味はよくわからないが、何かしらのガチの代物なのはわかる。
さっそく見てもらおう。
これが膝蓋骨、俗に言う「ひざのお皿」の模型である。
自分の脚にもこれが埋まっているのか……と、不思議な気持ちで模型を眺める。
それはともかく、この形だ。
「お皿」と言うから楕円形を想像していたが、このフォルムはどちらかというと五角形に近い。
また側面を見ると、意外と厚みがあることがわかる。
手持ちのデジタルノギスで測定したところ、横幅40.02mm、厚さ17.94mmであった。
よって、私が買うべきお皿の条件は以下のとおり。
- 二階の床から1m27cm~1m82cmの棚にある
- 五角形
- 幅の半分程度の深さがある
……五角形のお皿なんて、ある?
不安を抱えながら、密を避けるため、人の少なそうな時間帯を選んで地下鉄に乗った。
ひざのお皿を買いに来た
来たぞ! ニイミ洋食器店!
膝蓋骨の模型も持参している。なるべくこの骨に近い形のお皿を探すのだ。パズルのピースを見つけ出すような心境である。
なお、「二階の床から1m27cm~1m82cm」の条件だが、店内でメジャーを振り回していると怪しまれてしまう。
そこで外出前に、あらかじめ「床から1m27cm」の位置を測り、Tシャツに安全ピンでマーキングしておいた。
この位置より上にあるお皿を探せばいい、というわけだ。
それではいざ、店内へ! 何千枚とあるお皿の中から、ひざのお皿を求めてさまよう。
骨の模型を持ってうろうろしていると、骨壺を買いに来たのかと勘違いされるため、注意を払いつつお皿を吟味した。
ひざのお皿を買ったぞ!
では、ニイミ洋食器店で買ってきた、ひざのお皿を見てもらおう。
まずは「左ひざ」の位置にあったお皿から。
左ひざのお皿
これが左ひざのお皿である。
角ばっているのは気になるが、五角形で深みがある点ではこれ以上合致するものはなかった。まず五角形のお皿があることに驚きだ。
惜しむらくは、売り場が条件より10cmほど低めだったことである。まあ「コックさんはかがんでいる」ということで許してもらおう。
右ひざのお皿
これが、右ひざのお皿。
正直、深さは全くないのだが、物珍しさに負けてカゴに入れてしまった。こんなお皿見たことない。中央を基点に、5つのブロックに分かれている。中華料理などで調味料を入れるんだろうか?
なお、売り場の高さ的にはドンピシャだったぞ。
こうして、コックさんの右ひざ、左ひざのお皿が手元に揃った。
レジの店員さんから「この人、五角形フェチなのかな」と思われたかもしれない。性癖を疑われる危険を冒して得た成果である。
お皿として使おう
さて、せっかくお皿を買ったので、料理を盛りつけて食べよう。どうせなら、ひざにちなんだ料理がいい。
そういえば、ひざには軟骨があるな。
というわけで鶏の軟骨焼きを作り、左ひざのお皿に盛りつけた。
鶏の軟骨に料理酒をかけて炒めただけ。男の料理まっしぐらである。
そして、右ひざのお皿には調味料を用意した。上から時計回りに塩、醤油、ブルドッグソース、焼肉のタレ、チキンマックナゲットのマスタードソースである。
まさかここで特殊なお皿が役立つとは。味変を楽しもうではないか。
右ひざ、左ひざともに、本来のお皿としての使い方ができて満足である。
ジャンボコック像の画像に合わせて配置してみる。ひざのお皿が具現化して、コックさんも喜んでいるはずだ。
ただし、コックさんとにらみ合ったまま食べると解剖しているかのような錯覚におちいるため、画面をYouTubeに切り替えて食べた。
鶏の軟骨焼きは、コリコリの歯ごたえとたまにぶち当たるやわらかい部分の対比が楽しく、お酒のすすむ逸品であった。多少焦げついてしまったが問題なし。
ちなみに、鶏の軟骨焼きと調味料の相性は、以下のとおりだった。
- 塩 ★★★★★★★
- 焼肉のタレ ★★★★★★☆
- しょうゆ ★★★★☆☆☆
- ソース ★★★☆☆☆☆
- マスタード ★☆☆☆☆☆☆
「焼肉のタレは意外と合う」「マスタードはダメ」といった知見が得られた。
おわりに
ニイミ洋食器店には、食器や調理器具が和洋中のジャンルを問わず多数揃っている。それだけでなく、ナプキン立てや「予約席」の札など、飲食店に関するグッズがあますところなく売られており、見ているだけでも楽しいお店だ。
近くにお住まいの方は、ひざのお皿を思い出しつつ、足を運んでみてはいかがだろうか。
最後に、コックさんを見ていちばん驚いたことをお伝えしよう。
避雷針ついてる。