どこまでも果てしない、長い長い九十九里浜。千葉県にある有名な海岸線です。
街道歩きが趣味の私にとっては、人生で一度は踏破してみたいと思っていた一本道でした。
とはいえ、一里の長さは約4㎞(3.92727㎞)。それが九十九里までとなったら400㎞弱はあることになります。
ちょっとこれは長いな…! 400㎞となるとそれなりに準備が必要です。
えっと、まずは九十九里浜がどこからどこまでを指すのか確認して…
九十九里浜は、「旭市(旧飯岡町)刑部岬(あさひし(きゅういいおかまち)ぎょうぶみさき)」から「いすみ市(旧岬町)太東岬(たいとうみさき)」のあいだ66キロメートルの海岸(かいがん)をいいます。
あれ…? 66キロメートルのかいがん!? つまり「里」の単位にして十七里くらいしかないってことですね?
こうやって見ると案外踏破できちゃいそうな距離に感じます。行っちゃいましょう。
九十九里浜(66㎞)歩いてみた
そうは言っても66㎞。経験上、早歩きでも2日はかかります。
九十九里浜エリアの真ん中あたり、「山武市」に1泊して、2日かけて踏破を目指すことにしました。
九十九里浜を1里ずつの区間で分けるとざっくりこんな感じ。
1里(約4㎞)ずつ小休憩を挟んで歩けば、2日間はちょうどいいテンポかもしれません。昔の人は休憩のタイミングを考えて「里」という単位を生み出したのではないだろうかと思ってしまいます。
0里
さて、さっそく歩いていきたいところですが…。そもそも東京から九十九里までが遠い!!
まずは九十九里浜の最北端「刑部岬灯台」まで向かいます。千葉方面へ向かう特急「しおさい」の指定席券を買ったのに、数分の電車遅延で乗りそこないました。もう旅の幸先が悪いです。
そして自宅から3時間かけて…
刑部岬の最寄り、飯岡駅に到着しました。
現地の天気は雨。天気予報は「晴れ時々雨」でしたが、やっぱり今日の運勢は悪いみたいです。
1里(0~4㎞)
スタート地点の刑部岬灯台につきました。天気が悪い!!!!
せっかくのテラスからの眺望も、雲が低く重たくかかります。おまけに雹まで降ってきました。今日の星座占い、23位くらいかもしれない。
灯台のある丘から歩いていると、「ちょっとお姉さん」と車の中から声を掛けてくるおじさんが。「新手のナンパか?」と思いましたが違いました。
おじさん
「どこまで行かれるんですか?」筆者
「えっーっと、ここを下りて九十九里浜のほうへ…」おじさん
「すごい天候なのでちょうどいいところまで車で送っていきますよ!」筆者
「はあ…」おじさん
「実はボーイスカウトの者でして、子どもたちがこの土日に九十九里浜をサイクリングで走破するんですよ。子どもたちがこの辺を通るので、いま車で待ってるところだったんです」筆者
(方法が違うだけでやろうとしてること私とほぼ同じじゃん…!!)
しばらくすると自転車で数人の子どもたちがやってきました。
おじさん曰く、「ボーイスカウトは雨風関係なく決行なんでね」とのこと。つよい。
ボーイスカウトの監督者であるおじさんは、子どもたちにテキパキと指示し、車のなかにある雨具や着替えなどを渡し、子どもたちはこの天気のなか果敢にサイクリングを続行していきました。
いわば「ボーイスカウトの補給車」にたまたま乗せてもらうことになった私は、九十九里浜沿いのコンビニまでワープすることに。
コンビニのなかではちょっとお高めなカッパ上下セットを購入し、完全装備で挑むことになりました。
カッパを着て歩いていると、すいすいと追い抜いていった自転車集団。
あれは絶対ボーイスカウト!!! 雨風関係なく頑張る子どもたちに勇気をもらいました。
2里(4~8㎞)
そこには温泉がありました。
カッパを着るレベルの雨だと体力も精神力もゴリゴリ削れてしまうので、雨宿りを兼ねて身体を温めることにしました。
正直、早すぎる休憩スポットの登場、存分に甘えさせてもらいましょう!
温泉は濃い緑茶色。味は海沿い温泉らしくとてもしょっぱい! ほぼ海水に浸かっているような気分で、心も身体も浸透圧でほぐれます。
休憩処の味噌ラーメン。九十九里浜ご当地の海鮮料理ではないけど、「こういうのでいいんだよ」とはまさにこのこと。食堂のおばちゃんが作ってくれた優しい味がしました。
まだ全然進んでないんだけどな、こんなにリラックスして大丈夫かな。
3里(8~12㎞)
温泉から出ると、雨は止んでいました。少しだけ晴れ間が見えましたが、海は荒れ狂っています。
砂浜に残ったいくつかのタイヤの跡…。これはボーイスカウトの軌跡に違いありません。姿が見えなくなっても私を勇気づけてくれるあの子たちの偉大さよ。
このあとまた豪雨に見舞われ、ひたすらずぶ濡れになりながら歩きました。靴が完全に浸水して最悪の気分です。
4里(12~16㎞)
雨はまた少しの間上がりました。浸水しすぎて逆さ富士みたいになったベンチを見てもらえば、この雨のすごさは伝わるでしょう。
晴れた日にサイクリングでもしたら最高なんだろうなあ。
5里(16~20㎞)
雨だけでなく海風も容赦なく吹き付けて来るようになったので、すこし内陸に入って「九十九里ビーチライン」を歩きます。
この「ゆで落花生」の写真がこの旅で一番「千葉っぽい写真」となりました。
右も左も建物がほぼない、虚無感のある道が続いたため、海岸沿いに出ることにしました。
いや波つっっっよ…。
あまりに大迫力で迫りくる九十九里浜の波にびびって退散しました。
6里(20~24㎞)
まずい、暗くなってきてしまいました。
ハンター向けの注意看板。この辺、暗くなるとクマやイノシシが出そうな気配がむんむんします。
久方ぶりに見つけたコンビニ。雪国のような二重扉がありました。
7~9里(24~36㎞)
夜になってしまいました。
乙女が一人で夜道を歩くわけにはいきません。安全第一です。晩御飯でも食べて、タクシーでホテルへワープしましょう。
都心では当たり前になったタクシー配車アプリもこのあたりは対応外のようで、市内のタクシー会社を検索し片っ端から電話をかけます。
なんとか捕まったタクシーの道中にて、運転手さんがこの辺の土地の事情を語ってくれました。
「この辺は別荘を建てる人も多いんだけど、車社会だから歳をとって車に乗れなくなるともうどこへ行く足もなくなってしまうんだよね」
「最近新築を建てた夫婦も数年だけ住んで、不便さにしびれを切らして幕張のマンションに引っ越してしまったよ」
「高齢化して遠くに行けない人が多いから、移動式スーパーが巡回していたり、数少ないコンビニがスーパーの代替になって生鮮食品も売っていたりするんだよね」
なるほど…。よく千葉県民の「千葉なんてなんにもないからな~」なんて自虐を耳にしたことがありましたが、これはなかなかに深刻そうです。
都会の人が別荘地に求める「なんにもない」のレベルって、実は「多少はある」くらいなんでしょうね。本当に「なんにもない」場所はこんなにも普通に生活するのが困難だとは…。
運転手さんの話をしんみりと聞きながら、完全に真っ暗闇となった九十九里ビーチラインを車窓から眺めました。
ほんとうに無理して歩かなくてよかった。
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